六月の和菓子 水無月 2018-06

  六月末、半年の罪や穢れを祓う「夏越の祓え」で食べる京都のお菓子。「京都人の密かな愉しみ」という番組で初めて知った。「水無月」という美しい言葉の響きと文字が、京都の夏のしんとした暑さ、常盤貴子の演じた老舗和菓子屋若女将の佇まいと重なる。
水無月の一切れ山河滴れり  葛西美津子


五月の和菓子 柏餅 2018-05

 ばさばさと大きな葉を開くと、玉のような白い餅。店によっては味噌餡のピンクの餅もあるが、濃い緑の柏の葉には白い餅こそすがすがしい。ひと口ほおばると青葉を吹き渡る風の香り。大空には鯉幟が泳ぎ、子どもたちの、若い人たちの汗がまぶしい季節。

オリンピックパラリンピック柏餅  葛西美津子


四月の和菓子 桜餅 2018-04

  黒い格子戸のせいか、中はここちよいほの暗さ。しっとりとひんやりと桜餅が運ばれてきた。昨夜からの雨がこの菓子をいっそう匂い立たせている。しんとしたひとりの時間。しばらくして店を出ると雨があがっていた。雲の切れ間が滴となって葉をつたう。空気がやわらかい。

富士を見て帰る東京さくらもち  葛西美津子


三月の和菓子 雛あられ 2018-03

クラスメートの家に雛祭りのお招ばれ。帰りがけ、きゅっとひねった白い包みをもらう。ご馳走がいっぱいで食べきれなかった雛あられだ。春の雪のような小さなあられ、しゃぼん玉みたいな大きなあられ、たまに黒い甘納豆。包みを振ると春の光の音がした。

雛あられほころぶ花のごとき日々 葛西美津子


二月の和菓子 鴬餅 2018-02

白い紙箱を開けると鴬餅のやわらかな光。昔ながらのこの店は個別包装ではないので、箱の中でちょっと片寄るのもご愛嬌。鴬餅は互いにくっついて、すやすや眠っているかのよう。取り分けると青黄な粉の淡い色がこぼれた。今、目覚めて、瞬きをしたように。

鴬餅さもやはらかに押し合へる 葛西美津子


一月の和菓子 辻占 2018-01

辻占は金沢の新春のお菓子。まばゆい色の一つを割って、小さな紙を取り出す。「あなたとならば」私のは何やら意味深な言葉。にやにやしているあなたの紙には何て書いてあるの? だれも来ない、どこへも行かない、静かでおだやかなお正月。

辻占のかけらきらめく夢初め  葛西美津子


十二月の和菓子 鯛焼 2017-12

鯛焼十個、抱えて走る。冷めるのはもちろん、ぱりっと焼けた皮が、湯気でしなっとなるのだってかなしい。急げ、急げ。バザーの準備に途中から参加の私は、息せき切ってドアを開けた。「遅くなってごめん!鯛焼、差し入れ!」窓の外は風、落葉が舞っている。

鯛焼やまださめやらぬ夢ひとつ 葛西美津子


十一月の和菓子 柚餅子 2017-11

初めて食べたのに懐かしい。昼下がりの縁側で、まあお茶でも、と出された柚餅子。十一月の日溜りの庭は明るく暖かだった。雀が何か啄んでいる。それでも太陽は、傾いたと思うと見る間に衰え、やがて黄昏色に。柚餅子は懐かしくやさしいこの夕空のよう。

雲染めてこの秋が逝く柚餅子かな  葛西美津子


十月の和菓子 栗蒸し羊羹 2017-10

切り分けると真ん中に大きな栗、煌々と夜空に浮かぶ月のよう。これは老舗の、とびきりの栗蒸し羊羹。一方その辺で売っている、もっちりした生地にくすんだ栗がちょこんと乗っている、素朴な栗蒸し羊羹も捨てがたい。こちらはうす雲のかかったやさしい月の風情。

また雲に隠るる月や栗羊羹  葛西美津子


九月の和菓子 おはぎ 2017-09

祖母のおはぎはずっしりと重かった。中の丸めたごはんからして大きいのだ。それをまたたっぷりの甘いこし餡が包む。お墓参りの後、祖母の家で叔母や従妹たちとにぎやかに食べた。取り回すお重のおはぎが、秋の日につやつやと輝いていた。遠い日の昼下がり。

ひややかに大きく甘くおはぎかな  葛西美津子