水鶏(くいな、くひな)三夏
【子季語】
緋水鶏、姫水鶏、水鶏笛、水鶏たたく
【解説】
夏、水辺の蘆の茂みや水田などに隠れて、キョッキョッキョキョと高音で鳴く鳥。古来、歌に多く詠まれてきたのは緋水鶏で、その鳴声が、戸を叩くようだとして「水鶏叩く」といわれる。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
水鶏だにたゝけば明くる夏の夜を心短き人や帰りし よみ人しらず『古今六帖』
水鶏だに敲く音せば槙のとを心遣にもあけて見てまし 和泉式部『家集』
夕づく夜卯の花垣にかげそひて軒端に近く水鶏鳴くなり 京極為兼『君臣御歌合』
【実証的見解】
水鶏は、ツル目クイナ科の鳥の総称。春、南方から渡ってきて、全国各地の水田や湿地帯に棲みつく。そのうち、緋水鶏は大きさが二十五センチくらい、頭から胸にかけて赤く、背は褐色。水田、水辺の草むら、葦原などで生活し、昆虫やミミズ、水草などを食べる。鳴声はするが、警戒心が強くなかなか姿を見せない。水鶏笛は、なかなか姿を見せない水鶏を誘い出すための笛である。
【例句】
水鶏啼くと人のいへばや佐屋泊まり
芭蕉「有磯海」
この宿は水鶏もしらぬ扉かな
芭蕉「笈日記」
関守の宿を水鶏にとはうもの
芭蕉「伊達衣」
夜の雨にまた叩かるる水鶏かな
貞室「玉海集」
曇る日や水鶏ちらりと麦の中
惟然「冬紅葉」
夜あるきを田は寝ざりける水鶏かな
其角「五元集捨遺稿」
聞くうちにすゑまぼろしの水鶏かな
青蘿「青蘿句集」
明けながら月見る窓の水鶏哉
宗養「大発句帳」
桃燈を消せと御意ある水鶏かな
蕪村「落日庵句集」
水音は水にもどりて水鶏かな
千代女「千代尼発句集」
叩き寄る水鶏の門の雨夜かな
松本たかし「石魂」