霧(きり)三秋
【子季語】
朝霧、夕霧、夜霧、山霧、野霧、狭霧、霧の帳、霧襖、霧の籬、霧の海、霧の雫、霧雨、霧時雨
【関連季語】
霞、夏の霧、冬の霧
【解説】
秋、細かな水の粒子が白い煙のように立ち込める現象。同じ現象は秋ばかりではなく春にも起こるが、これは霞(春の季語)と呼ぶ。遠くのどかににたなびく「霞」に対して、「霧」は冷やかに立ちこめる。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
秋霧の晴るるときなき心には立ちゐの空も思ほえなくに 凡河内躬亘『古今集』
秋霧の立ちし隠せば紅葉ばはおぼつかなくも散りぬべらなり 紀貫之『後撰集』
秋霧の晴れぬあしたの大空を見るがごとくも見えぬ君かな よみ人しらず『拾遺集』
【実証的見解】
霧は、水蒸気を含んだ大気の温度が下がり、大気中に含まれていた水蒸気が微小な水滴となって発生する場合と、大気中に水蒸気が補給され、大気が飽和状態になって発生する場合がある。冷えてできる霧には放射霧、移流霧などがあり、水蒸気が補給されてできる霧には蒸気霧、前線霧などがある。放射霧は、地表面から熱が放射され地面が冷えて発生する。移流霧は、温かく湿った空気が冷たい地面または水面へ移流し、そこで冷やさて発生する。蒸気霧は、温かく湿った空気と冷たい空気と混ざって発生し、前線霧は、前線付近の雨粒から蒸発した水蒸気が飽和状態となって発生する。
【例句】
霧時雨富士を見ぬ日ぞ面白き
芭蕉「野ざらし紀行」
曙や霧にうづまく鐘の声
芭蕉「続句空日記」
松なれや霧えいさらえいと引くほどに
芭蕉「翁草」
雲霧の暫時百景をつしけり
芭蕉「句選拾遺」
湯の名残幾度見るや霧の下
芭蕉「真蹟拾遺」
朝霧や村千軒の市の音
蕪村「蕪村句集」
有明や浅間の霧が膳をはふ
一茶「株番」
樒さす手からも霧は立ちにけり
一茶「旅日記」
故郷をとく降り隠せ霧時雨
一茶「七番日記」
熊笹のさゝやき交はす狭霧かな
前田普羅「定本普羅句集」
霧にひらいてもののはじめの穴ひとつ
加藤楸邨「吹越」