猫の恋(ねこのこい、ねこのこひ) 仲春
【子季語】
猫の妻恋、恋猫、猫さかる、浮かれ猫、猫の夫、猫の妻、猫の契、春の猫、戯れ猫、通ふ猫
【関連季語】
猫の子
【解説】
恋に憂き身をやつす猫のこと。春の夜となく昼となく、ときには毛を逆立て、ときには奇声を発して、恋の狂態を演じる。雄猫は雌を求めて、二月ごろからそわそわし始め、雌をめぐってときに雄同士が喧嘩したりする。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【例句】
猫の恋やむとき閨の朧月
芭蕉「をのが光」
麦めしにやつるゝ恋か猫の妻
芭蕉「猿蓑」
猫の妻竃の崩れより通ひけり
芭蕉「江戸広小路」
まとふどな犬ふみつけて猫の恋
芭蕉「茶のさうし」
羽二重の膝に飽きてや猫の恋
支考「東華集」
猫の恋初手から鳴きて哀れなり
野坡「炭俵」
声たてぬ時が別れぞ猫の恋
千代女「千代尼句集」
おそろしや石垣崩す猫の恋
正岡子規「子規句集」
恋猫の眼ばかりに痩せにけり
夏目漱石「漱石全集」
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく
加藤楸邨「まぼろしの鹿」
はるかなる地上を駆けぬ猫の恋
石田波郷「酒中花」
恋猫やからくれなゐの紐をひき
松本たかし「松本たかし句集」
山国の暗すさまじや猫の恋
原石鼎「花影」
猫の恋老松町も更けにけり
日野草城「青芝」
恋猫の声のまじれる夜風かな
長谷川櫂「蓬莱」