高橋順子さん「風の名前」について語る

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10月2日、久しぶりの秋晴れの日曜日、神奈川近代文学館に於いて、きごさい講座+句会が開かれた。
 講師に詩人の高橋順子さんをお迎えし、「風の名前」をテーマにお話をいただいた。
 高橋順子さんは古志とは浅からぬ縁のある方で、30年程前に一ツ橋句会と称して長谷川櫂を主宰とする10名ほどの句会が、月一度持たれ、そこで高橋さんも大いに句作に励まれた由。古志の萌芽の時代を知る方である。

 今回のテーマの「風の名前」は、高橋さんの御著書のタイトルでもある。高橋さんには、「雨の名前」「花の名前」「月の名前」「恋の名前」などのシリーズがあり、いずれも様々な名前の由来に写真、エッセイ、自作の詩を付けられた、言わば詩的なエッセイとでも呼びたい本である。
 
 日本は四方を海に囲まれた島国である。自然の影響を強く受ける国ゆえ、古来より自然現象についての言葉が豊かで、風に関しても、時期、強弱、色合いと、きめ細やかに表現されている。その名、数にして2千以上という。それは、自然災害の多いこの国の言葉の知恵であったかもしれない。
 日本で最も古い風の名前は「あいの風」。「あいの風」は「あゆの風」ともいい、日本海から沿岸に吹く夏の涼やかな海風。魚介類を浜辺に寄せてくる風でもある。
万葉集に大伴家持の次の歌がある。

あゆの風いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小舟漕ぎ隠る見ゆ  大伴家持

数年前の夏、福井県の東尋坊を訪れたとき、涼しく心地よい風が吹いていた。地元で「あいの風」と呼んでいると知り、これが大伴家持も吹かれた風、と思ってうれしかった、と高橋さんは微笑まれた。そして、風の古語を紐解かれ、さまざまな風の名前を披露してくださった。

句会後のフリートークでは、昨年亡くなられたお連れ合いで小説家の車谷長吉氏との思い出を話してくださった。お住まいのある千駄木にちなみ駄木(だぼく)句会と名付け、夫婦二人の句会を楽しまれた由。小説家の前は料理人をされていた車谷氏の作るお雑煮のお話も楽しく聴かせていただいた。
 句会後の高橋さんのご感想。
「みなさん、この短時間に風の名句を沢山作ってくださったことに驚きました」
高橋順子さん、素敵な風のお話をありがとうございました。(趙 栄順 記)

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<句会報告  選者=高橋順子 長谷川櫂>
◆ 高橋順子 選
特選
金斗雲と呼べば飛びくる栗きんとん  長谷川櫂
ひるがへり風の川ゆく一葉かな  葛西美津子
しつしつと秋の日降るや異人墓地  五月女政夫

入選
葉の上に書かれし経文菊供養  松田欣末子
露笑みて風ささやきて芋太る  藤野侃
とりどりの風の吹きくる秋扇  飛岡光枝
鉦叩村中の窓たたきけり  三玉一郎
ハロウィンのどの顔となる南瓜かな  片山ひろし
火の鍋や金の風吹く中華街  西川遊歩

◆ 長谷川櫂 選
特選
ひるがへり風の川ゆく一葉かな  葛西美津子
良き風に歌を合はせん宗鑑忌  岩﨑ひとみ
一兵の塗炭しのばん茱萸赤し  園田靖彦
風の名をみな知つてゐる花芒  井上じろ
新蕎麦ややませの吹きし故郷より  葛西美津子

入選
屁は風の仲間であらう秋句会  藤野侃
秋風が見える港の見える丘  趙栄順
庇まで薪つむ人秋の暮  五月女政夫
書いてすぐ忘るる漢字秋の風  片山ひろし
極楽のあまり風の中端居かな  川村玲子
恋をせぬ国おそろしや破芭蕉  西川遊歩
とりどりの風の吹きくる秋扇  飛岡光枝
凪のまに風は秋へと衣更  神谷宣行
なにはなくとも新米の塩むすび  片山ひろし
鉦叩こころの鉦を叩きをり  趙栄順
庇うつ音や椎の実櫟の実  鈴木伊豆山
くびれなき瓢も吹かれふくべ棚  飛岡光枝
風を待つ草ばかりなり秋の庭  北島正和
すぐそこの母の家へと露の中  川村玲子
埋れゐしことば掘り出す豊の秋  西川遊歩
極楽の余り風くる秋昼寝  飛岡光枝
火の鍋や金の風吹く中華街  西川遊歩
九十九里にくぢらも揚がるいなさかな  三玉一郎

◆ 選者の一句
赤とんぼおのが名を知つていさうなり  高橋順子
金斗雲と呼べば飛びくる栗きんとん   長谷川櫂

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