第9回きごさい+『詩のなかに咲く薔薇』レポート 

1月22日、「詩のなかに咲く薔薇」をテーマにきごさい講座が開かれた。

講師は渡辺竜樹さん。

<講座レポート>
歳時記における「薔薇」を再確認してみると。「バラは美しい花の代表です。夏の初めにさまざまな色の花を咲かせます。世界中でつぎつぎと新しい品種が作られ、すてきな名前がつけられます。茎に鋭いとげがあるのも、バラの特徴です。よい香りがするので香水の原料にもなります。」(『こども歳時記』小学館)

詩歌における薔薇、タイトルにもある『詩のなかに咲く薔薇』とは何であろうか。

さて、薔薇とは何でしょうか?という問題提起とともに渡辺竜樹氏の自己紹介が始まった。竜樹氏は在学中に多くの詩歌と接してこられ、俳句や短歌だけではなく、その知識は古代の詩から現代詩までと、実に幅が広い。本だけ読めば良い、というだけではなく、その創作者本人と直に会いたいという習性を持っている、との言葉が印象的であった。

最初にこの詩を皆さんと読みましょう、と渋沢孝輔の『白日の薔薇』を読みあげた。今回の講義で最初に紹介された薔薇の詩だ。

「どんな白日の眩暈のなかでなら/そんなにも深く/燃えるような色をみせて咲く薔薇の/狂おしい秘密が明かされるというのか」

から始まる詩を読み終えると、一読ではなかなか読み取れないと思うので、最後にもう一度読んでみましょう、と再び話題は薔薇へと移った。

薔薇が他の花とは異なる点は何であろうか。花とは美を体現し、性を象徴したもの。花の文学史は愛の文学史と言える。薔薇には棘があるという点において、他とは異なる花となっている。氏の説明の中に、百合子と名付ける場合はあるが、薔薇子はない。白百合女子大学はあっても白薔薇大学は聞いたことがない、との話になるほどと皆が頷いた。
「白日の薔薇」の一節「誘いながら拒み/拒みながらひきよせ包みこむ」を引用し、そこに薔薇の魅力の本質があることを指摘された。

人々の薔薇への関心はギリシア・ローマ時代に始まる。サッフォーやアナクレオン、クレオパトラから15世紀の所謂「バラ戦争」などの話を交え、当時の「薔薇」のイメージを語り、いかに薔薇が身近で、特別な花であったことを解説された。とりわけ「白い薔薇」における、純粋無垢の表象が処女マリアと結びつく話が興味深かった。南仏叙情詩人は赤薔薇を貴婦人へと結びつけた。「ばらが、白と赤とりどりに、いばらのあいだに咲いている。と、中世の精神は、そこに、象徴的な意味をみてとるのである。ばらの美しさ、やさしさ、純粋さ、血のような赤さを、処女と殉教者もまた、もっているからである。」(ホイジンガ『中世の秋』、堀越孝一訳)

「薔薇の魅力はそのパラドックスにある」(種村季弘)「おそらく薔薇の花において自然に人工が重なるぐあいと、詩において自然に人工が重なるぐあいが、ひそかに熱く対応しているのである。これは薔薇以外の花と詩とのあいだでは生じない関係だろう。」(清岡卓行)これらを引用しつつ、人と薔薇、さらには詩歌と薔薇の密接した関係に話は触れた。

文字数の関係があり、とても全ては引用は出来ないが、当日は、サッフォーやオマル・ハイヤーム、氏の専門のフランシス・ジャム、リルケやブレイク、更には白秋や西脇順三郎の薔薇の詩を朗読し、解説を交えた。一日でこれだけ薔薇の詩だけを読むのは稀な機会だろう。付け加えておくと、氏の声は詩の朗読に向いたよく通る声。話はアジアや日本と薔薇の話へ移り、まとめへ。

ここで最後にもう一度「白日の薔薇」を読んでみましょう、と竜樹氏の朗読に耳を傾ける。
「誘いながら拒み/拒みながら包みこむ/十重二十重の破りようもない旋律よ」
よく読まないとなかなか辿り着けないところが魅力です、と語った。薔薇の歴史、薔薇の詩を聴いてから再びこの詩を味わうと、新たな魅力を感じたのは、あの場所に居た人の共通した感想ではないだろうか。

今日の詩の中から、いくつか自分の宝となる詩があれば、嬉しく思います、と講義は終わった。

薔薇は美しい。現実の薔薇も、詩歌の薔薇も。竜樹氏は薔薇とその詩歌に相応しい、美しい案内人であった。
西村 麒麟 記

<句会報告  選者=渡辺竜樹 長谷川櫂>
◆ 渡辺竜樹 選
特選
フランス山さんざめくなり冬木の芽  飛岡光枝
詩のなかに氷れる薔薇の香りかな   葛西美津子
入選
薔薇百本詩を説く君に贈らばや    伊藤昭子
からからから潮風に回る冬の薔薇   飛岡光枝
一人づつ秘めたる薔薇の莟あり    長谷川櫂
追憶の砕かれてゐる白薔薇      川村玲子
青春の自画像ならん柚子ひとつ    趙栄順
冬薔薇流刑のごとくただ一輪     西川遊歩
薔薇の詩を読む竜樹さん春隣     趙栄順

◆ 長谷川櫂 選
特選
揺るるたび光不可思議冬薔薇     井上じろ
棘凍てて真白の薔薇のけさひらく   葛西美津子
佐保姫の花の唇歌うたふ       飛岡光枝
冬薔薇光の崖となりにけり      三玉一郎
紅のつぼみに冬の深みゆく      飛岡光枝
冬薔薇言葉氷つてをりしかな     上村幸三
詩のなかに氷れる薔薇の香りかな   葛西美津子
入選
薔薇百本詩を説く君に贈らばや    伊藤昭子
薔薇とする古き話や冬ごもり     西村麒麟
からからから潮風に回る冬の薔薇   飛岡光枝
風光る白秋の薔薇リルケの薔薇    趙栄順
太陽を揺らしてゐたり冬の薔薇    渡辺竜樹
冬薔薇流刑のごとくただ一輪     西川遊歩
ほころびてあとは一気や薔薇ひらく  上田雅子
青空のつめたき薔薇をきりにけり   川村玲子

◆ 選者の一句
太陽を揺らしてゐたり冬の薔薇  渡辺竜樹
大寒の薔薇よ世界を統治せよ   長谷川櫂

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