俳句 | 季語 | 出典 |
春の鳶寄りわかれては高みつつ | 春の鳥 | 百戸の谿 |
紺絣春月重く出でしかな | 春の月 | 百戸の谿 |
抱く吾子も梅雨の重みといふべしや | 梅雨 | 百戸の谿 |
わが息のわが身に通ひ渡り鳥 | 渡り鳥 | 百戸の谿 |
花栗のちからかぎりに夜もにほふ | 栗の花 | 百戸の谿 |
露草も露のちからの花ひらく | 露草 | 百戸の谿 |
天つつぬけに木犀と豚にほふ | 木犀 | 百戸の谿 |
春すでに高嶺未婚のつばくらめ | 燕 | 百戸の谿 |
いきいきと三月生る雲の奥 | 三月 | 百戸の谿 |
満月に目をみひらいて花こぶし | 辛夷 | 百戸の谿 |
山河はや冬かがやきて位に即けり | 冬 | 百戸の谿 |
強霜の富士や力を裾までも | 霜 | 百戸の谿 |
新米といふよろこびのかすかなり | 新米 | 百戸の谿 |
大寒の一戸もかくれなき故郷 | 大寒 | 童眸 |
雪の峰しづかに春ののぼりゆく | 春 | 童眸 |
灯の下の波がひらりと夜の秋 | 夜の秋 | 童眸 |
秋冷の黒牛に幹直立す | 冷やか | 童眸 |
枯れ果てて誰か火を焚く子の墓域 | 冬枯 | 童眸 |
湯の少女臍すこやかに山ざくら | 山桜 | 童眸 |
晩年の父母あかつきの山ざくら | 山桜 | 童眸 |
裸子にかすかな熱の竈口 | 裸 | 童眸 |
山碧く冷えてころりと死ぬ故郷 | 冷やか | 麓の人 |
雪山のどこも動かず花にほふ | 花 | 麓の人 |
手がみえて父が落葉の山歩く | 落葉 | 麓の人 |
桔梗一輪死なばゆく手の道通る | 桔梗 | 麓の人 |
亡き父の秋夜濡れたる机拭く | 秋の夜 | 麓の人 |
緑陰をよろこびの影すぎしのみ | 緑陰 | 麓の人 |
生前も死後もつめたき箒の柄 | 冷たし | 忘音 |
亡き母の草履いちにち秋の風 | 秋風 | 忘音 |
父母の亡き裏口開いて枯木山 | 枯木 | 忘音 |
同じ湯にしづみて寒の月明り | 寒月 | 忘音 |
子の皿に塩ふる音もみどりの夜 | 新緑 | 忘音 |
どの子にも涼しく風の吹く日かな | 涼し | 忘音 |
きさらぎは薄闇を去る眼のごとし | 如月 | 忘音 |
春暁の竹筒にある筆二本 | 春暁 | 忘音 |
雲のぼる六月宙の深山蝉 | 六月 | 春の道 |
白菊に遠い空から雨が来る | 菊 | 春の道 |
一月の川一月の谷の中 | 一月 | 春の道 |
雪の日暮れはいくたびも読む文のごとし | 雪 | 春の道 |
枯れはてて濯ぐうしろは山ばかり | 冬枯 | 春の道 |
白い肌着のなかの膚の小六月 | 小春 | 春の道 |
しんかんと栄螺の籠の十ばかり | 栄螺 | 春の道 |
蜆売りしばらく仰ぐ大手門 | 蜆 | 春の道 |
釣鐘のなかの月日も柿の秋 | 柿 | 春の道 |
騒然と柚の香放てば甲斐の国 | 柚子 | 春の道 |
鷹とほる柿爛熟の蒼の中 | 鷹 | 春の道 |
銀鼠色の夜空も春隣り | 春近し | 春の道 |
炎天のかすみをのぼる山の鳥 | 炎天 | 春の道 |
大鯉の屍見にゆく凍のなか | 冱つ | 山の木 |
冬深し手に乗る禽の夢を見て | 冬深し | 山の木 |
薬草の一束揺れる神無月 | 神無月 | 山の木 |
ふるさとは坂八方に春の嶺 | 春の山 | 山の木 |
眠る嬰児水あげてゐる薔薇のごとし | 薔薇 | 山の木 |
かたつむり甲斐も信濃も雨のなか | 蝸牛 | 山の木 |
元日や忘れられゐし白兎 | 元日 | 山の木 |
雛を掌に乗せて霞の中をゆく | 霞 | 山の木 |
白梅のあと紅梅の深空あり | 紅梅 | 山の木 |
黒猫の子のぞろぞろと月夜かな | 月 | 山の木 |
三伏の闇はるかより露のこゑ | 三伏 | 山の木 |
偽りのなき香を放ち山の百合 | 百合の花 | 山の木 |
枯山の月今昔を照らしゐる | 冬の山 | 山の木 |
貝こきと噛めば朧の安房の国 | 朧 | 山の木 |
春の雷ひびく赤子の六腑かな | 春の雷 | 山の木 |
たのしさとさびしさ隣る滝の音 | 滝 | 山の木 |
水澄みて四方に関ある甲斐の国 | 水澄む | 山の木 |
冬の雲生後三日の仔牛立つ | 冬の雲 | 山の木 |
別の桶にも寒鯉の水しぶき | 寒鯉 | 涼夜 |
かるた切るうしろ菊の香しんと澄み | 歌留多 | 涼夜 |
鳴く鹿のこゑのかぎりの山襖 | 鹿 | 涼夜 |
朧夜の船団北を指して消ゆ | 朧 | 涼夜 |
海鼠噛む遠き暮天の波を見て | 海鼠 | 涼夜 |
梅漬の種が真赤ぞ甲斐の冬 | 冬 | 涼夜 |
存念のいろ定まれる山の柿 | 柿 | 今昔 |
齊粥仮の世の雪舞ひそめし | 七種 | 今昔 |
葱抜くや春の不思議な夢のあと | 春の夢 | 今昔 |
柚の花はいづれの世の香ともわかず | 柚の花 | 今昔 |
去るものは去りまた充ちて秋の空 | 秋の空 | 今昔 |
返り花咲けば小さな山のこゑ | 帰り花 | 今昔 |
裏富士の月夜の空を黄金虫 | 金亀子 | 今昔 |
鹿の子にももの見る眼ふたつづつ | 鹿の子 | 今昔 |
良夜かな赤子の寝息麩のごとく | 良夜 | 今昔 |
鳥帰るこんにやく村の夕空を | 鳥帰る | 今昔 |
朧月露国遠しと思ふとき | 朧月 | 山の影 |
鏡餅わけても西の遙かかな | 鏡餅 | 山の影 |
龍の玉升さんとよぶ虚子のこゑ | 龍の玉 | 山の影 |
月夜茸山の寝息の思はるる | 月夜茸 | 山の影 |
鶏鳴のちりりと遠き大暑かな | 大暑 | 山の影 |
凧のぼるひかりの網の目の中を | 凧 | 山の影 |
おのがこゑに溺れてのぼる春の鳥 | 春の鳥 | 遅速 |
闇よりも山大いなる晩夏かな | 晩夏 | 遅速 |
鶏鳴に露のあつまる虚空かな | 露 | 遅速 |
白雲のうしろはるけき小春かな | 小春 | 遅速 |
初燕木々また朝をよろこべり | 燕 | 遅速 |
千里より一里が遠し春の闇 | 春の闇 | 遅速 |
涅槃の日鰻ぬるりと籠の中 | 涅槃会 | 遅速 |
茅舎の死ある夜ひとりの夏座敷 | 夏座敷 | 遅速 |
百千鳥雌蕊雄蕊を囃すなり | 百千鳥 | 遅速 |
涼風の一塊として男来る | 涼風 | 遅速 |
炎天の鹿に母なる眸あり | 炎天 | 遅速 |
厭な風出て来し山の木の実かな | 木の実 | 遅速 |
落葉の夜歌仙これより恋の部へ | 落葉 | 遅速 |