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8/13(土) ズームできごさい+ 「祈りや願い、落雁に込めて」

きごさいBASE 投稿日:2022年6月2日 作成者: dvx223272022年6月2日

さまざまなジャンルから講師をお迎えして季節や文化に関わるお話をお聞きする「きごさい+」。
今回の講師は、きごさい+ではおなじみの虎屋文庫の中山圭子さん。

会場で開催の時は虎屋さんのご協力でお菓子付きの講座でしたが、今回もZoomを使ったオンライン開催のため残念ながらお菓子は配れません。講師の中山さんから「全国各地にさまざまな落雁がありますので、ぜひこの機会に傍らに落雁とお茶をご用意いただき、味わいながら、ご参加ださい。」とコメントをいただいております。講演の後、句会もあります。(選者:中山圭子、長谷川櫂)

演 題 : 祈りや願い、落雁に込めて
講 師 : 中山 圭子(なかやま・けいこ)

プロフィール:
東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。四季折々の和菓子のデザインの面白さにひかれて、卒論に「和菓子の意匠」を選ぶ。
現在、和菓子製造販売の株式会社虎屋の資料室、虎屋文庫の主席研究員。
著作に「事典 和菓子の世界 増補改訂版」(岩波書店)、「江戸時代の和菓子デザイン」(ポプラ社)、「和菓子のほん」(福音館書店)など。

講師のひと言
落雁とは、米粉などに砂糖を加えた生地を木型に詰め、打ち出した干菓子のことで、押物、打菓子、粉菓子とも呼ばれます。お盆やお彼岸のお供え菓子のイメージが強いかもしれませんが、かつては招福除災にちなむ様々な意匠の落雁が、慶弔の贈り物に使われました。今回は、人々の暮らしとともにあった落雁の魅力についてお話したいと思います。

日 時:2022年8月13日(土)13:30~16:00  (13:15~ Zoom入室開始)
13:30~14:45  講演
14:50~15:20  句会(選句発表)
15:20~16:00  長谷川櫂(きごさい代表)との対談、質疑応答
<申込み案内>
1. 参加申し込み 8/3(水)まで:  ここをクリック して申込みフォームからお申込みください。
2. 参加費:きごさい会員:1,000円  会員外:2,000円 会費の振込先は自動確認メールでお知らせします。
3.ズームのURL、句会の入力フォームのURLは、申込みと入金された方に8/8までにメールで配信致します。かならずご確認ください。
4.句会:当期雑詠5句 前日投句です。 選者:中山圭子、長谷川櫂
前日8/12(金) 17時までに所定のフォームから投句。ただし句会の参加は自由です。
ズームを使ったオンライン講演会です。8/3(水)までに参加申し込みをして、8/8頃メールで配信するズーム入室URLなどの案内をご確認いただかないと、当日視聴できません。よろしくお願いいたします。
注意:当日、講演の録画や画像の複写はなさらないようご注意ください。

きごさい+ / 「気候の危機と俳句の危機」概要

きごさいBASE 投稿日:2022年5月20日 作成者: dvx223272022年5月20日

5月4日、講師に環境社会学者で俳人の長谷川公一さん(俳号:冬虹)をお迎えして「きごさい+」が開催されました。気候危機、いわゆる地球温暖化のメカニズム、その影響の深刻さなど、わかりやすく解説していただきました。そして、今から自分たちができること、を考える充実したご講演でした。長谷川公一さんより概要をいただきましたのでご覧ください。

気候の危機と俳句の危機
尚絅学院大学大学院特任教授
長谷川公一

「気候危機」という転換点
長期化するコロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻という衝撃的な出来事が続いています。私たちが大きな分岐点・転換点に立っているのは確実ですが、問題は、人類がどこに向かっているのか、現代がどういう分岐点・転換点なのか、ということです。
ベルリンの壁が崩壊し、ヨーロッパで「冷戦」が終焉した1990年代には、来るべき21世紀に対して楽観的な見方が多かったですが、2010年代・2020年代と分断と亀裂が深刻化しています。「冷戦の終焉」は幻想だったのでしょうか。
現在、世界全体が直面している危機の一つは「気候危機」です。長い間「地球温暖化」という言葉が使われてきましたが、影響は温暖化にとどまりません。干ばつや豪雨、竜巻など、異常気象の頻発・日常化が顕著です。すでに気候の危機が顕在化している、対策が急務であることを強調して、2019年頃から海外では「気候危機」という言葉がよく使われるようになってきました。

気候危機と俳句の未来
気候危機と俳句の未来とは一見無関係のようですが、気候の危機は、季語の存立や季語の持つリアリティを危うくしかねません。刊行されはじめた『新版角川俳句大歳時記』全5巻は、「季語の本意」の歴史的な変遷を教えてくれますが、気候の危機には、季語の持ちうる実感や手触りを徐々に毀損していく危険性があります。
気候危機対策がうまく行かなかった場合には、2100年までに、産業革命前と比較して、平均気温が4.8℃上昇すると予測されています。その場合には日本でも、最高気温が35℃以上の猛暑日が年間で60日以上にも達する、年間1.5万人を超える熱中症による死者、豪雨の激化、台風の巨大化などが予想されています(https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/2100weather/(”2100+天気予報“で検索してください))。
桜が3月30日頃に全国でほぼ一斉に開花するようになり、「桜前線」という言葉が死語になり、九州南部では冬の寒さが不足するために、桜が開花しなかったり、満開にならないことも想定されています。
大豆が世界的に品薄になり、高級食材になるとも予測されています。2050年代以降は、節分に「豆撒き」ができなくなるだろうと見られています。稲作の中心は北海道に移行しますが、北海道でも高温障害によって米の品質が悪化し、米は輸入食品になる危険性も指摘されています。
「田起し」「田植え」「青田」「稲刈り」「今年米」など、俳句の根幹にかかわる稲作文化が、九州や四国・本州のかなりの部分では、昔語りになってしまう怖れがあるのです。
私は「果樹王国」山形県の出身ですが、2060年代には、山形県の庄内地方や北陸地方の沿岸部も温州ミカンの栽培適地になると予測されています。山形県では2010年からかんきつ類の試験栽培を始めています。北限のみかんやすだちなどが既に試験栽培で収穫されています。2060年代には鹿児島県や熊本県・愛媛県・高知県・和歌山県・静岡県など現在の温州ミカンの栽培適地は、高温障害で温州ミカンの栽培には適さなくなると懸念されています。夏ミカンなどへの転換が必要になるそうです。
現在は山形特産ですが、サクランボの栽培適地も北海道に移行する可能性があります。
ミカンやリンゴが色づきにくくなる、病害虫の発生など、気候危機の影響は既に顕在化しつつあります。
櫂先生は、「季語はみな時とともに移ろうものを惜しむ言葉であり、歳時記はその集積である」と指摘しておられます(長谷川櫂『俳句的生活』中公新書、2004年、p.109)。四季の移ろいこそが日本人の美意識を育み、短歌や俳句など短詩形文学の土壌になってきましたが、やがては4月中旬から9月末頃まで、半年近くにわたって夏が居座るようになり、春秋冬は短くなると予測されています。
季節の移ろいという感覚が希薄化することは、俳句にとっては一種の「死刑宣告」のようなものかも知れません。

1.5℃未満に抑えられるか————日本政府の消極姿勢
地球全体の平均気温を産業革命前と比較して、1.5℃未満に抑えられるかどうかがカギになると科学的に警告されています。既に約1.0℃上昇していますので、あと0.5℃の上昇にとどめなければなりません。そのためにも、早期の効果的な気候危機対策と、2050年以降、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロに抑えられるかが世界的な課題になっています。
肝心の気候危機対策は、ドイツをはじめEU諸国は積極的ですが、日本政府は消極的です。温室効果ガスの8割以上は、発電所などのエネルギー由来です。気候危機はエネルギー政策と表裏一体です。
日本政府の対応は、技術革新への期待が中心で、政策的に誘導しようとする姿勢に乏しいものです。経団連の「自主行動計画」、各業界の自主的な取り組みに委ねて、積極的に規制しようとする姿勢が弱いのです。気候危機対策も、エネルギー政策も、大胆な政策転換が不得手です。気候危機対策は「票にならない」こともあって、政治家の関心も低いのです。環境問題に関しては、農林族や文教族のような「族議員」も不在です。
もっとも効果的な政策は炭素税のように、炭素に価格を付けることですが、懸案となりながらも、本格的な炭素税の導入は、遅々として進みません。
ドイツやオランダなどでは会員数が20〜30万人の環境NGOが幾つもありますが、日本には会員数が1万人を超える環境NGOはほとんどありません。財政基盤も弱いために、環境NGOの政治的影響力も乏しいのです。韓国や台湾に比べても薄弱です。

未来は持続可能か
フランスの国旗三色旗は、青が自由を、白が平等を、赤が博愛を現わしています。自由・平等・博愛は、フランス革命以来の近代社会の理念を示していますが、現在中心、現世代中心の価値観です。最近SDGs(持続可能な開発目標)が浸透しつつありますが、持続可能性は、未来に生き残れるのかを問いかける新しい理念です。
お子さんやお孫さん、まだ見ぬ命の未来にも思いをはせましょう。
今年2022年生まれの赤ん坊は、2030年に8歳、50年に28歳、70年に48歳、80年に58歳、2100年に78歳を迎えます。1945年から本年までが77年。78年後もたちまちやってくるはずです。そのときどういう地球になっているのか、日本になっているのか、が問われています。2022年5月4日という現在は、2100年に向かう明日に続いています。

「俳句的生活」の原点
政府や大企業の責任が大きいですが、私たち市民ひとりひとりが出来ることもたくさんあります。
お薦めは地産地消です。筍や空豆をはじめ、地元産の旬のものを食べることは、輸送などにかかわるエネルギーを節約することにもなり、地域の農業を励ますことにもなり、将来世代のためでもあり、いい句材にもなります。一石三鳥・四鳥の効果があります。
公共交通機関の利用を心がけるとともに、一駅分歩くとか、バス停幾つ分かを歩くことは、健康にも財布にもやさしく、地球にもやさしく、句作のヒントにもなります。
安物買いをせずに、いいものを長く使おうとすることも、ごみを減らすことにつながり、気候危機対策になります。
全身をアンテナにして、五感を研ぎすまし、季節の移ろいに敏感になって、つつましやかで、たしなみのある生活を心がけることは、ささやかではあっても、地球にやさしい暮らし方であり、「俳句的生活」の原点とも言えるのです。

ご講演後、句会も開かれました。
句会報告   選者=長谷川櫂、長谷川公一(冬虹)
◆ 長谷川櫂 選
【特選】
ラ・フランス冷たき空に花開く     飛岡光枝
八十八夜はやも藤だな茫々と      ももたなおよ
けふ八十八夜止まざる砲撃よ      ももたなおよ
【入選】
この星に戦場いくつ春ゆけり      斉藤真知子
だんだんゆがむこの星に芹を摘む    イーブン美奈子
砲弾が幾万の薔薇砕きゆく       趙栄順

◆ 長谷川公一(冬虹)選
【特選】
田植機にどこか似てゐる戦車かな    齋藤嘉子
きらきらと赤子の尿や柏餅       齋藤嘉子
ととのはぬ国の形や蟇         斉藤真知子
好戦と厭戦を挟む昭和の日       喜田りえこ
口紐を切つてやりたや鯉幟       上俊一
【入選】
よく生きてよき虫たりぬ青菜かな    上村幸三
この星に戦場いくつ春ゆけり      斉藤真知子
花虻を真似てつつじの蜜吸はん     金澤道子
法華経の金字と銀字若葉寒       村山恭子
この年の残雪ゆたか田植かな      高橋慧
滴りやここにはじまる最上川      長谷川櫂
青空をゆすつてゐたり今年竹      葛西美津子
千年後越後の国に田植かな       斉藤真知子
人類は悪しき生きもの卯波かな     上村幸三
まかなひの昼をつげたる田植かな    田中益美

『大人も読みたい こども歳時記』、高知県の高校入試問題に引用されました。

きごさいBASE 投稿日:2022年5月10日 作成者: dvx223272022年5月10日

新聞に掲載された高校入試問題です。(2022年3月4日の高知新聞より)

小山正見さんの句集『大花野』、東京新聞に紹介されました。

きごさいBASE 投稿日:2022年4月20日 作成者: dvx223272022年4月21日

 日本学校俳句研究会代表で、きごさい全国小中学生俳句大会の実行委員長を務める小山正見さん(74)が句集『大花野』(朔出版、1650円)を上梓した。認知症の妻(74)との十年間の生活の中で詠んだ三十六句を収めている。東京新聞(4月14日付朝刊)記事に取り上げられた。
小山さんが妻の異変に気づいたのは2012年秋。東京新聞記事によれば、小山さんが妻に頼まれた買い物をして帰宅すると、「頼んでないわよ」と言われたという。その後も気になる言動が続いた末、脳が委縮するアルツハイマー型認知症と診断された。
大学時代から交際を始めて結婚したという夫婦。介護の苦労も多かったが、持ち前の明るさとバイタリティーで愛する妻に献身的に接してきた様子がそれぞれの句から伝わってくる。(藤英樹)

荒梅雨の花に水やる君と居て
「あなたのは」とばかり訊く妻さくらんぼ
徘徊に誘ふ秋の螢かな
ここはどこあなたはだあれ大花野
家に居て帰るてふ妻秋彼岸
長き夜や妻の寝息を確かむる
憚らず肩を抱きし冬の道
冬至風呂パンツもブラも新調し
二人して枯れた緑を見てをりぬ
春満月道なき道を照らしをり

きごさい第14号 特集 コロナと俳句

きごさいBASE 投稿日:2022年3月31日 作成者: dvx223272022年4月8日


 購読を希望される方は、右サイドのお問い合せからお申し込みください。一冊1500円(送料込み)になります。きごさいの正会員には4月10日までにお届けいたします。

衰退する結社–藤 英樹
さんぽ歳時記–きごさい編集部

連載 加藤楸邨×大岡信 対談②
第一句集『寒雷』出発点とその背景構成–解説 西川遊歩

連載 末期的大衆社会をどう乗り越えるか③
大衆社会と俳句–木下洋子

HAIKU十(今何が問題か)
近代俳句の超克 「切れ」再考–五島高資

きごさい十(講座十句会)
俳句とアジアモンスーン気候、そして日本の風土–安成哲三
古の風に舞う着物–森岡正博
羊莫の不思議–中山圭子

植物季語の科学的見解 七–藤吉正明

第11回きごさい全国小中学生俳句大会リモート講評会の報告

きごさいBASE 投稿日:2022年3月22日 作成者: dvx223272022年3月22日

第11回きごさい小中学生俳句大会には、昨年を上回る117校18706句の応募がありました。この大会の最大の特徴は、俳句の専門家である俳人と学校現場の教師が協力して選句と運営に当たっていることです。
本来は、風光明媚な清澄庭園で表彰式を行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、今年も選者によるリモートに講評会を3月12日(土)に開催しました。このリモート講評会には、選を受けたこどもたちをはじめ、指導された学校の先生、きごさいメンバーなど約60名が参加しました。
きごさい副代表の西川遊歩さんが大会の概要について説明し、講評会がスタートしました。実行委員長の小山正見さんが司会を担当し、選者の長谷川櫂さん(きごさい代表)、髙田正子さんにきごさいの飛岡光枝さん、日本学校俳句研究会の上澤篤司さんが加わり、講評が行われました。
大賞は、
『コスモスのわけめはねこのとおる道』
選者の長谷川櫂代表、高田正子さん、飛岡光枝さんから講評をいただきました。「〈わけめ〉の言葉の選択がすばらしい。コスモスが揺れている中、掻き分けたような道をねこが行く風景が伝わってきます」と。
作者本人も登場し、「ねこかいぬのどちらかだと思い、ねこが落ち着くと思いました」と明快に解説してくれました。
入選の
『学校のつめたいほうき落葉はく』
この句は茨城県の学校の取り組みで生まれた俳句で、実際に落葉掃きをした後、詠んだそうです。指導に当たった先生から「〈つめたい〉と〈落葉〉が季重なりになってしまっていますが、よいのでしょうか?」という質問がありました。「〈つめたい〉に発見があり、実感があるので、このままでよい」と、指導の方向性が示されました。やはり経験したことは、いきいきとした句になる実例の一つと思います。
『母の日を忘れてしまってすみません』
『風鈴の下でまってるおばあちゃん』
『白い息冬のしあわせつまっている』
これらの句は、純粋で素直なこどもの視点がよいと評価されました。
『しょう油味南瓜の煮物ほくほくと』
この句の講評にはお母様も登場。俳句は親子の絆を深めることもある、と再確認させてくれました。他の料理の句、『母さんはやきそば名人文化の日』は特選です。
『春の風やさしい人になりたいな』
これは日本学校俳句研究会の現場の教師が選んだ20句選の中の一句。
「〈やさしい人になりたいな〉と思うことがやさしい」と評されました。
長谷川代表からは「現場の先生ならではの、教育者としての選が良い」と言っていただきました。大変心強い現場の教師へのエールでした。
俳人、現場の教師、こどもたち、保護者、それぞれが発言し、60名の活気ある充実した講評会となりました。
入選や佳作の俳句を読み、感想を言い合い、俳句への関心をさらに深めていただけたら、と願っています。

日本学校俳句研究会  吉田祥子

第11回きごさい全国小中学生俳句大会

きごさいBASE 投稿日:2022年3月14日 作成者: dvx223272022年5月2日

【大賞】
コスモスのわけめはねこのとおる道 江東区立第六砂町小学校 小2 小板橋蒼翔
小山正見 選
【特選】
コスモスが見える教室ここがすき 品川区立後地小学校 小3 塩谷悠
太陽を使い果たしてサッカー部 八王子市立由井中学校 中3 島村泰史
母さんはやきそば名人文化の日 品川区立後地小学校 小3 臺田果依
【入選】
冬晴の体育の日なら大歓迎 江東区立東陽中学校 中2 石原光
母の日を忘れてしまってすみません 江東区立深川第三中学校 中2 新井陽彩志
グローブの皮が固まる冬の朝 江東区立浅間竪川小学校 小5 上野結正
小春日に写真一コマ仲間入り 八王子市立由井中学校 中3 五十嵐由夏
セミよりも大きなこえで九九おぼえ 京都市京都女子大学付属小学校 小2 中井陽香
うつくしいおちゃわんにもる今年米 江東区立小数矢小学校 小3 太田将智
天高しできた空中さか上がり 品川区立後地小学校 小3 山下キコ
焼かないと決めた今日から日傘デビュー 高崎市立岩鼻小学校 小6 佐藤凛乃
まんげきょうくるんと回せば夏祭り 江戸川区立北小岩小学校 小3 藤崎結衣
公園の大小ちがうせみのあな 江東区立深川小学校 小4 岩楯航太郎
【佳作】
コスモスのわけめはねこのとおる道 江東区立第六砂町小学校 小2 小板橋蒼翔
春の午後ブロックつなげてなかなおり 江東区立第一亀戸小学校 小2 王樂源
養源院武士の魂眠る秋 江戸川区篠崎中学校 中3 加藤健吾
気動車の窓いっぱいに夏の海 狛江市立狛江第二中学校 中2 池田禮士郎
おにごっこだいたいつかまるこはる空 大田区立矢口小学校 小1 長谷知瑛
ちょっとだけになった虫かごのなか 高岡市立伏木小学校 小1 沙綾音
小鳥来る休み時間は鬼が来る 江東区立第六砂町小学校 小6 平柳弘輝
どんぐりを六こひろって二こあげたよ 江東区立南陽小学校 小2 横尾瑠海
赤とんぼ池の水面おしりちょん 江東区立第四大島小学校 小5 友野琉偉
どんぐりにマーカーペンでお顔づけ 江東区立豊洲北小学校 小3 尾﨑友理
テスト期間むやみにやっちゃう大掃除 江東区立第二砂町中学校 中1 菅原千愛
鈴虫が鳴くなかぼくは本の虫 江戸川区立北小岩小学校 小5 鈴木悠生
たまねぎのスープのあじが冬はじめ 江東区立有明西学園 小2 安藤史織
いい湯だなもぐってみようみかんぶろ 江東区立浅間竪川小学校 小3 中嶋朔玖
あさくさのベンチで食べるあずきバー 江東区立越中島小学校 小6 財津悠生

髙田正子 選
【特選】
コスモスのわけめはねこのとおる道 江東区立第六砂町小学校 小2 小板橋蒼翔
セミよりも大きなこえで九九おぼえ 京都市京都女子大学付属小学校 小2 中井陽香
さよならを言う日はいつも咲くさくら 江東区立小数矢小学校 小5 石井百美
【入選】
大なわのなかをくぐったあきびより 江東区立第一亀戸小学校 小1 松橋結子
秋晴やママパパ見てる綱を引く 北区立西浮間小学校 小3 片岡明里
学校のつめたいほうき落ち葉はく 茨城県筑西市立上野小学校 小3 佐藤優歌
南風サッカー場をつつみこむ 苫小牧市立沼ノ端中学校 中3 川村昊也
冬将軍東京せめる準備中 足立区立西新井小学校 小5 武田夏輝
朝つゆにひかるトマトにかぶりつき 江東区立豊洲西小学校 小5 落合碧
三階に朝顔のつる夏終わり お茶の水女子大学附属中学校 中1 高柳奈都美
風鈴の下で待ってるおばあちゃん 鹿児島市立坂元中学校 中2 茶圓由依
ともだちとじてんしゃこぐと春のかぜ 土佐市立高岡第一小学校 小3 山下薫
コスモスが見える教室ここがすき 品川区立後地小学校 小3 塩谷悠
【佳作】
銀河まですけて見えそう秋の空 江東区立豊洲北小学校 小6 江川杏
くっつき虫二つのツメをもっている 小平市立小平第五小学校 小5 稲垣豪太
どんぐりをビルのすきまにけりとばす 江区立辰巳中学校 中3 高橋俊平
さかあがりはじめてできた秋の空 江東区立第二大島小学校 小2 佐々木花梛
しゃぼん玉小さなにじをはこんでる 江東区立小数矢小学校 小4 高木美緒
我を待つ日焼けの栞桜桃忌 柳井市立柳井西中学校 中1 鹿島友恵
弟の虫かごの中どんぐりだ 江東区立南陽小学校 小4 伊藤陽心
除夜の鐘心にひびく一回目 江東区立第二亀戸小学校 小3 鶴田大稀
夕焼けの後ろ姿は夏の日々 江東区立豊洲西小学校 小5 長尾怜奈
コスモスのむこうがわには海がある 江東区立第六砂町小学校 小2 柴田創一郎
春風は誰かの背中をそっと押す 大野城市立大利中学校 中3 堤蒼馬
秋晴の休日を待つスニーカー 狛江市立狛江第一中学校 中2 西澤敢大
山粧う色鉛筆が尽きるまで 大田区立矢口小学校 小5 古川天美
しもばしらとげとげしてるきらきらだ  菅生学園初等学校 1年 前田晃旺

長谷川櫂 選
【特選】
けんだまであそんでいたらふゆがきた 江東区立有明西学園 小1 熊倉さくら
あさがおがどんどんのびるみずの音 江東区立八名川小学校 小2 曽根悠聖
カレンダーめくりたくない夏終わる 江東区立越中島小学校 小3 小林直生
【入選】
白うさぎ雪にかくれてかくれんぼ 江東区立有明小学校 小4 橋本理紗子
星空で僕の金魚が笑ってる 星光学院中学校 中2 小澤和典
お母さんいつもすわってせんぷうぎ 岐阜県大垣市立墨俣小学校 小4 沖田竜之介
どんぐりを並べて遊ぶ知らない子 多摩市立東寺方小学校 小5 千葉心織
白い息冬のしあわせつまってる 江東区立八名川小学校 小3 石原優衣
置き去りのほうきの友は昼の虫 江戸川区立北小岩小学校 小4 水坂アリヤナ
なまはげにだきしめられて泣く子かな 江東区立平久小学校 小4 小野博登
うちのとりがたまごをうんだあきのひる 江東区立南陽小学校 小1 高嘉庸
太陽を使い果たしてサッカー部 八王子市立由井中学校 中3 島村泰史
これからも友情守るかかしかな 江東区立浅間竪川小学校 小4 片岡美乃莉
【佳作】
コスモスのわけめはねこのとおる道 江東区立第六砂町小学校 小2 小板橋蒼翔
秋の空青と白とのもようがえ 江東区立越中島小学校 小3 二見舞
学校のつめたいほうき落ち葉はく 筑西市立上野小学校 小3 佐藤優歌
こたつにね体をぜんぶたべられた 江東区立第二亀戸小学校 小3 王秋子
さかあがりできたのみてたひつじぐも 足立区立中川北小学校 小1 佐藤夕莉亜
猛暑日今にもうごく大仏だ 川崎市立宮前平中学校 中3 安澤洪寿
どんぐりが会ぎをしてる木のまわり 江東区立深川小学校 小2 髙野杏紗
飛びまわるくいしんぼうな赤とんぼ 江東区立有明小学校 小5 浅田かえで
捨て案山子顔を見せずに泣いている 駿台甲府小学校 小4 古屋璃佳
ぐっすりと笑いつかれて山眠る 江東区立南陽小学校 小5 松﨑萌恵
けごんの滝くものうえからザーザーと 足立区立花畑第一小学校 小6 横山斗哉
おいかける人を見下ろす揚羽蝶 台東区立駒形中学校 中2 折山史諭
夏休み今日から俺は受験生 鹿児島市立坂元中学校 中3 山ノ内優馬
学校に歩いてきたよかめの子が 江東区立小数矢小学校 小4 久原奏佳
ふゆの星こんぺいとうを見つけたよ 徳島文理小学校 小2 中村健汰

正木ゆう子 選
【特選】
コスモスのわけめはねこのとおる道 江東区立第六砂町小学校 小2 小板橋蒼翔
冬しょうぐんサッポロラーメンたべていた 江東区立浅間竪川小学校 小4 黒須柊
群青に筆を走らせ天の川 江東区立越中島小学校 小6 星明日翔
【入選】
秋の夕海を相手の役作り いちき串木野市立羽島中学校 中2 上修平
うつくしいおちゃわんにもる今年米 江東区立小数矢小学校 小3 太田将智
綿菓子の甘い風吹く夏の夜 苫小牧市立沼ノ端中学校 中3 髙橋翔太
枝豆のごとく飛び出るくすりかな 学習院女子中等科 中1 本間まどか
炎天や光る金閣笑う友 川崎市立宮前平中学校 中3 高村心椿
秋晴や百十四人網を引く 北区立西浮間小学校 小3 徳留我将
上ぐつを洗って始まる夏休み 伊賀市立成和東小学校 小6 林想真
黒板に消え残る跡いわし雲 江戸川区立北小岩小学校 小6 野本淑夏
家康は秋の景色にかこまれる 江東区立南陽小学校 小6 水江友基
天高しクラりネットの三連符 狛江市立狛江第一中学校 中2 清水虎徹
【佳作】
みかんむくてきとうにむいて食べる 江東区立浅間竪川小学校 小4 三浦優莉
文かの日かたちきれいなオムライス 足立区立中川北小学校 小2 黒澤和真
グローブの皮が固まる冬の朝 江東区立浅間竪川小学校 小5 上野結正
夏休みどっぷりはまった三国志 北区立田端小学校 小6 金井悠斗
パーカーをリュックにつめて行く小春 八王子市立由井中学校 中3 田中杏果
しょう油味南瓜の煮物ほくほくと 江東区立元加賀小学校 小4 野崎楓桂
すいかきるははのおでこにたねがとぶ 伊賀市立成和東小学校 小3 辻真幸
枯蟷螂事切れてなほ地に構ふ 太子町立太子東中学校 中2 大西遥稀
焼きいもを二つに割れば光ってる 江東区立小数矢小学校 小6 川邉亮成
コスモスが見える教室ここがすき 品川区立後地小学校 小3 塩谷悠
除夜の鐘心にひびく一回目 江東区立第二亀戸小学校 小3 鶴田大稀
木枯らしが行きつく先に巨木あり 江東区立深川第四中学校 中2 河合泰
秋風がみんなのえんぴつ動かした 土佐市立高岡第一小学校 小6 吉村李綸
たまねぎのスープのあじが冬はじめ 江東区立有明西学園 小2 安藤史織
くりひろいかおをあげれば日がしずむ 江東区立小数矢小学校 小3 本島茉莉

研究会 選
たい焼きを足踏みしつつ父と待つ お茶の水女子大学附属中学校 1年 山本茉朋
すんとした座布団一枚盆の月 仙台市立郡山中学校 1年 星慧斗
秋晴の休日を待つスニーカー  狛江市立狛江第一中学校 2年 西澤敢大
セミよりも大きなこえで九九おぼえ 京都市京都女子大学付属小学校 2年 中井陽香
右左見ないでわたる春の風 土佐清水市清水小学校 3年 中嶋煌
牛小屋にかとりせんこう父がおく 伊賀市立成和東小学校 4年 山﨑航平
爽籟に応援団の声太し いちき串木野市立羽島中学校 2年 藤田琉聖
大仏も倒れたくなる暑さかな 川崎市立宮前平中学校 3年 吉田葵
宿題は終わらず窓にかたつむり 大阪星光学院中学校 2年 濱崎佑吏兜
オニヤンマえいごルームにまよいこむ 菅生学園初等学校 3年 田中夕雅
妹もこたつの中にひみつきち 江戸川区立南篠崎小学校 4年 木賀琴音
うつくしいおちゃわんにもる今年米 江東区立小数矢小学校 3年 太田将智
グローブの皮が固まる冬の朝 江東区立浅間竪川小学校 5年 上野結正
春の風やさしい人になりたいな 江東区立第二亀戸小学校 4年 冨吉司
父さんと同時にひらく初みくじ 江東区立第二亀戸小学校 5年 ??野奈々
さわやかにノートひらいてまずめあて 江東区立第六砂町小学校 3年 吉川夏生
さかあがりできたのみてたひつじぐも 足立区立中川北小学校 1年 佐藤夕莉亜
山粧う色鉛筆が尽きるまで 大田区立矢口小学校 5年 古川天美
コスモスが見える教室ここがすき 品川区立後地小学校 3年 塩谷悠
母さんはやきそば名人文化の日 品川区立後地小学校 3年 臺田果依

5月4日(水) ズームできごさい+ 気候の危機と俳句の危機

きごさいBASE 投稿日:2022年3月8日 作成者: dvx223272022年4月20日

さまざまなジャンルから講師をお迎えして、季節や文化に関わるお話をお聞きする「きごさい+」
今回の講師は、環境社会学者で俳人の長谷川公一さんです。どうか奮ってご参加ください。
講演の後、句会もあります。(選者:長谷川公一、長谷川櫂)

演 題 : 気候の危機と俳句の危機

講 師 : 長谷川 公一 (はせがわ・こういち)
社会学者。尚絅大学大学院特任教授。東北大学名誉教授。気候危機、原発・エネルギー問題などを社会学的に研究。
1954年、山形県上山市生。現在、国際社会学会理事、公益財団法人みやぎ・環境とくらし・ネットワーク(MELON)理事長など。
『環境社会学入門』(ちくま新書、2021年)、『脱原子力社会へ』(岩波新書、2011年)ほか。日本の環境運動や気候危機問題への草の根的・地域的な取組などについて、国際的に発信。俳号・冬虹(とうこう)、古志同人。句集『緑雨』(2006年)。

講師のひと言
俳句の大前提たる四季の区別。しかし気候危機の深刻化にともなって、日本では次第に夏と冬は長く、春と秋は短くなると予測されています。産業化がもたらした二酸化炭素などの排出量増大にともなう気候危機の深刻化は、俳句の存立基盤そのものをも大きく揺るがせるリスクがあります。気候危機は持続可能な未来に立ちはだかる大きな壁の一つです。気候危機のメカニズムと予想される影響、深刻さ、対応の難しさなどをわかりやすく解説します。

日 時:2022年5月4日(水)13:30~16:00  (13:15~ Zoom入室開始)
13:30~14:45  講演
14:50~15:20  句会(選句発表)
15:20~16:00  長谷川櫂(きごさい代表)との対談、質疑応答

<申込み案内>
1. 参加申し込み受付 4/24(日)まで:  ここをクリック して申込みフォームからお申込みください。
2. 参加費:きごさい会員:1,000円  会員外:2,000円 会費の振込先は自動確認メールでお知らせします。
3.ズームのURL、句会案内(投句と選句フォーム)申込みと入金された方に4/30までにメールで配信します。かならずご確認ください。
4.句会:当期雑詠5句 前日投句です。 選者:、長谷川公一(冬虹)、長谷川櫂
前日5/3(木) 17時までに所定のフォームから投句。ただし句会の参加は自由です。

ズームを使ったオンライン講演会です。4/24(日)までに参加申し込みをして、4/30頃メールで配信するズーム入室URLなどの案内をご確認いただかないと、当日視聴できません。よろしくお願いいたします。

きごさい+/時空を超える『源氏物語』あらまし

きごさいBASE 投稿日:2022年2月17日 作成者: dvx223272022年3月2日

 1月29日、講師に俳人の毬矢まりえさん、詩人の森山恵さんご姉妹をお迎えして「きごさい+」が開催されました。『源氏物語 A・ウェイリー版』全四巻を出されたご姉妹。この美しく画期的な訳書は第一巻発刊時から注目され、2020年のドナルド・キーン特別賞を受賞されました。
 紫式部とウェイリーと時空を超えてご姉妹で再創造された『源氏物語』、その魅力と文学的な意味を堪能したご講演でした。ご姉妹から概要をいただきましたのでご覧ください。

時空を超える『源氏物語』
紫式部、アーサー・ウェイリー、芭蕉へ

               毬矢 まりえ
               森山 恵

Ⅰ.『源氏物語』、ウェイリー訳『源氏物語』との出会い
 まず、幼い頃に百人一首との出会いがありました。なかでも好きだった歌「めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲隠れにし夜半の月かな」。この歌人が、『源氏物語』という物語の作者、紫式部と知ります。そして十代半ばから源氏物語を読み始めました。最初は母の書棚に並んでいた谷崎潤一郎訳、それから与謝野晶子訳、円地文子訳、古典原典と読み進めていったのです。
 アーサー・ウェイリー訳『源氏物語The Tale of Genji』との出会いは、大学院で恵が研究していた小説家ヴァージニア・ウルフを通してでした。彼女の友人であるイギリス人のオリエンタリスト、アーサー・ウェイリーが、いまから約100年前、世界で初めて『源氏物語』を英語全訳したと知ったのです。語学の天才である彼は独学で日本語を学び、約十年でこの偉業を成し遂げました。1925年に第一巻が出版されるや、文壇の大評判となります。「人類の天才が生み出した十二の名作のひとつ」と原作も翻訳も激賞され、『戦争と平和』『カラマーゾフの兄弟』『失われたときを求めて』などと並び称され、一躍世界文学と認められました。レディ・ムラサキの、世界の文壇への鮮烈なデビューでした。

Ⅱ. 『源氏物語 A・ウェイリー版』の戻し訳/らせん訳
様々な経緯を経て、この作品を「戻し訳しよう!」と決意した私たち。なんとか引き受けてくれる出版社、編集者を見つけ、約3年半の訳業が始まりました。翻訳の上で、とくに工夫したのは次の点です。
① ルビ
ルビは視覚的に一瞬で重層的なイメージが創り出せる日本語特有の表現だと思います。漢字にカタカナ、現代日本語に古語、
カタカナに現代語・古典語など、ルビを細かく使い分けました。1000年前の平安時代、100年前のイギリス、現代の日本、それぞれの言語・文化の多層的イメージを読者に伝えたかったのです。
② カタカナ
登場人物の名前をカタカナで表記しました。
どこの国か、いつの時代か、限定されない新しい源氏物語を創造したい。それが私たちの願いでした。ゲンジ、トウノチュウジョウ、レディ・コキデン、プリンセス・アオイ……。
人名だけでなく、硯や障子、数珠、琵琶、琴、横笛といった事物も、日本の古典世界に訳し戻さず、平安時代から解放しようとしました。レディやプリンスは馬車に乗り、ワインを片手に愛の言葉を交わし、フルート、リュートで音楽を奏でます。どの単語をどう訳すか、一語一語悩み迷い、二人で話し合いました。

Ⅲ.ウェイリー源氏の和歌について
 ウェイリーは詩人でもありましたから、物語中の和歌、詩の重要性をよく理解していたと思います。けれども基本的には和歌を韻文としては訳さず、「~という詩を詠みました」「~と詩で答えました」など、見事に訳文に織り込んでいます。その代わり、その部分が詩であることが伝わるよう、ウェイリーはさまざま手法を用いています。そのひとつが「本歌取り」ともいうべき形です。
① シェイクスピア
一例として、シェイクスピアのソネット18番を挙げたいと思います。10帖「賢木」で光源氏と頭中將が交わす歌です。原典の歌は、
・それもがとけさひらけたる初花に劣らぬ君がにほひをぞ見る
・時ならでけさ咲く花は夏の雨にしをれにけらしにほふほどなく
ウェイリーはこの和歌を、シェイクスピアの有名なソネット18番の言葉を借りて翻訳しています。
“Not the first rose, that but this morning opened on the tree, with thy fair face would I compare.”
“Their time they knew not, the rose-buds that today unclosed. For all their fragrance and their freshness the summer rains have washed away.”
・あなたの美しい顔は、今朝咲き初めたファーストローズにも比べられようか
・今朝開いた薔薇のつぼみは、自らの時を知らなかったのです。その香気も瑞々しさも、夏の雨が洗い流してしまいましたから
(『源氏物語 A・ウェイリー版』拙訳)
シェイクスピア ソネット18番の第一連は、
Shall I compare thee to a summer’s day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer’s lease hath all too short a date;
君を夏の一日に喩えようか
君はさらに美しくて さらに穏やか
夏の荒々しい風は可憐な蕾をゆさぶるし
それに夏はあまりにも短いあいだしか続かない
first rose, buds, compare, summer などの単語を含む訳文から、シェイクスピアの有名なソネットを想起せずにはいられません。
② 『源氏物語』の文学的重層性
 紫式部の文章そのものにも、重層性があるのです。この一場だけでも、たとえば頭中将の歌は紀貫之の本歌取りになっていますし、その他白楽天の漢詩、催馬楽の「高砂」、史記など、いくつもの言葉が歌の前後に引用、言及されています。ウェイリーは白楽天の翻訳者でもありますから、注をつけるなどして紫式部の文学の重層性も読み取って読者に示しています。

Ⅳ. 芭蕉と源氏物語
 さて、江戸の俳人松尾芭蕉の俳句にもまた、『源氏物語』を読み取ることができます。芭蕉は『嵯峨日記』に記述に見られる通り、『源氏物語』を愛読していました。芭蕉の師・北村季吟は源氏物語の注釈書『湖月抄』を著した学者でもありましたから、芭蕉も影響を受けていたでしょう。たとえば、
曙はまだむらさきにほとどきす
 芭蕉の頭には当然、清少納言『枕草子』があったと思います。
 けれど前書きに「(……)暁 石山寺に詣。かの源氏の間を見て」とあります。「むらさき」は紫式部へのオマージュでもあったのです。また「おくのほそ道」の冒頭部には、「弥生も末の七日、曙の空朧ゝとして、月は在明にて光をさまれる物から……」とあります。これは『源氏物語』の「帚木」帖と呼応しています。
『源氏物語』原文と比較して、他に3句例を挙げたいと思います。
夕顔のみとるるや身もうかりひよん (続山の井)
寄りてこそそれかとも見めたそがれにほの〲見つる花の夕顔(『源氏物語』「夕顔」帖)
花の顔に晴うてしてや朧月(続山の井)
いと若う をかしげなる声のなべての人とは聞えぬ、朧月夜に似る物ぞなきと(『源氏物語』「花宴」帖)
笋や雫もよその篠の露 (続連珠)
御歯おひいづるに食ひあてむと、たかなをつと握りもちて、雫もよよと食ひぬらし給へば(『源氏物語』「横笛」帖)

Ⅴ. 結論
 千年前に紫式部が書いた『源氏物語』には、ご紹介した場面だけでも古今集の紀貫之、白楽天の漢詩、催馬楽、中国の歴史書『史記』が引用されていました。350年前の芭蕉にもまた、その『源氏物語』をはじめ、白楽天や杜甫などの漢詩、万葉集、古今集などの古典が響いています。そして100年前のアーサー・ウェイリー訳『源氏物語』にも、シェイクスピアなどイギリス文学やヨーロッパ文学、白楽天の言葉までが重ねて翻訳されているのです。普遍的な作品には、こうした文学的重層性があるのではないでしょうか。
 私たちも多層性を意識し、その多声を反映した作品にしたいと言葉を探し、推敲し続けました。この翻訳を私たちは仮に「らせん訳」呼び、言葉の創造に挑みました。哲学者ヘーゲルは、歴史は「らせん的に発展する」と説いています。上からはただの円ですが、横から見ると上方へと向かう「らせん」。ヨーロッパの言語・文化を潜り、時空を超えた『源氏物語』。その物語を、単なる「戻し訳」ではなく「らせん的に」再創造したかったのです。もちろん、非力な私たちにどこまでそれが成せたか……心もとなくありますが、能う限りを注ぎました。少しでも読者の方々に感じていただけるものがあれば、幸せに思います。
 長谷川櫂先生には、第一巻刊行のときから拙作の本意と価値を見抜いて、励ましの言葉を送っていただきました。
 皆さま長時間拙い話を聞いていただき、ありがとうございました。     (了)


ご講演後、句会も開かれました。
句会報告   選者=長谷川櫂、森山恵、毬矢まりえ
◆ 長谷川櫂 選
【特選】
いくとせの春にほそりし九十九髪      川村玲子
わが胸に春匂ひたつ一書かな        葛西美津子
読みさして春の重みを膝の上        葛西美津子
春の夢目覚めぬままに一生過ぐ       上田忠雄
うたた寝の源氏の君か花びら餅       澤田美那子
【入選】
赤子眠る春のささやき聞きながら      趙栄順
春節や天地自在に龍の舞          木下洋子
春はすぐそこに苺は大福に         澤田美那子
冬ごもり六条御息所恐ろしき        上松美智子
白梅や老神父よりエアメール        毬矢まりえ
春立つや雪より寒き雨の降る        澤田美那子
風花や生死のあはひ隔てなく        藤英樹
蝋梅は四方八方ひかりかな         藤原智子
梅の香や道通さじと石一つ         花井淳
日向ぼこ昔小町と言ひ合うて        木下洋子
シャイニングプリンスようこそ千年後の春へ 上田雅子
白梅と紅梅といふ姉妹あり         三玉一郎
風花のその一片のやうな恋         藤英樹
痛きほど固き莟は白梅か          葛西美津子
春霞となりゆく人やつくも髪        川村玲子
時々は猫の入りくる冬ごもり        飛岡光枝

◆ 森山恵 選
【特選】
大白鳥はや線になり点になり        高橋慧
初雀若紫を訪ふならむ           中丸佳音
夢の世の岸をはるかに流し雛        長谷川櫂
シャイニングプリンスようこそ千年後の春へ 上田雅子
白梅と紅梅といふ姉妹あり         三玉一郎
【入選】
大寒の竹百幹の影真直ぐ          中丸佳音
バラ線のこの穴くぐり恋の猫        宮本みさ子
雪兎この世に赤き実をふたつ        飛岡光枝
絵屏風や衣摺れの音の行き交ひぬ      高橋真樹子
日脚のぶ雀目白とうち混じり        澤田美那子
水仙の二本ばかりを文机          田中益美
書く人の魂千年の春空に          越智淳子
手紙待つ日々過ぎにけり冬木の芽      田中益美
一滴の墨の滲みや春の雪          上田忠雄
人の世へ涙をこぼす屏風かな        三玉一郎
夢の世を流るる河へ流し雛         長谷川櫂
蝋梅は四方八方ひかりかな         藤原智子
山眠りながらときどき笑ひたる       藤原智子
梅の香や道通さじと石一つ         花井淳
薄氷光の音をたてて消ゆ          葛西美津子
椿落つただ窓開けただけなのに       金澤道子
うたた寝の源氏の君か花びら餅       澤田美那子
有明の寒月全きまゝに落つ         足立心一
時々は猫の入りくる冬ごもり        飛岡光枝

◆ 毬矢まりえ 選
【特選】
几帳より洩れくる光寒牡丹         花井淳
初雀若紫を訪ふならむ           中丸佳音
わが胸に春匂ひたつ一書かな        葛西美津子
書く人の魂千年の春空に          越智淳子
梅の香や道通さじと石一つ         花井淳
うたた寝の源氏の君か花びら餅       澤田美那子
読初に挑む二度目の源氏かな        上田雅子
【入選】
母の手が金粉降らす貝合せ         川村玲子
春薫る石山寺の苞の伽羅          越智淳子
大白鳥はや線になり点になり        高橋慧
雪兎この世に赤き実をふたつ        飛岡光枝
絵屏風や衣摺れの音の行き交ひぬ      高橋真樹子
橋の上すれ違ひしは佐保姫か        中丸佳音
母の声聞きたき朝や花ミモザ        川村玲子
読みさして春の重みを膝の上        葛西美津子
小夜時雨ジャズの粒立つ旅の宿       畝川晶子
花吹雪舞ふや公達風の袖          越智淳子
シャイニングプリンスようこそ千年後の春へ 上田雅子
着ぶくれの園児圧しあふ乳母車       足立心一
白梅と紅梅といふ姉妹あり         三玉一郎
半仙戯交互にゆらす姉妹かな        三玉一郎

恋の俳句大賞(2021年後期)は石浜西夏さん

きごさいBASE 投稿日:2022年2月11日 作成者: dvx223272022年2月11日

 恋の俳句大賞(2021年後期)は石浜西夏さんの次の句に決まりました。石浜さんにはクリストフル社の銀の写真たてを賞品としてお贈りします。

【大賞】
はるのゆきはたちのきみが舞いおりる 石浜西夏
【受賞者のコメント】
はたちか十九か、数字で悩みましたが年齢と一目でわかる『はたち』に。「恋」。苦手なジャンルですが、取り組んでみると色々な感情が込み上げてきて止まらなかったです。一度門前で挫けた俳句の道に、励みをいただきました。大賞を、本当にありがとうございました。

☆村松二本 選
【特選】
立春大吉鬼に恋していいですか       村上ヤチ代
蝋梅の香りを歩く二人かな         青沼尾燈子
告白は直訳めいて冬の虹          水野大雅
【入選】
花街に女のかざす時雨傘          山田蹴人
マフラーを巻かれそのまま腕の中      茂る
雑踏に君の笑顔やクリスマス        倉森信吉
偶然を恋の味方に春の風          矢作 輝

☆趙栄順 選
【特選】
右側の手だけだんだんあたたまる      瀧田絆菜
われ映る君の瞳見たしライラック      山下 守
窓に雪とける二人の時間かな        城内幸江
はるのゆきはたちのきみが舞いおりる    石浜西夏
恋を知る少女金魚にうちあけし       高津佳子
【入選】   
立春大吉鬼に恋していいですか       村上ヤチ代
石鹸玉あなたへ息が続かない        三玉一郎
ただ横に居るだけでいい日向ぼこ      髙井珠佐
失恋のベリーショートや冬りんご      鹿沼 湖
同じ月観ている君へLINEして        横山理恵子

☆長谷川櫂 選
【特選】
秋日影イヤホンひとつ肩ならべ       紫檀
泣いて泣いて泣いても生きていた夏     鈴野蒼爽
はるのゆきはたちのきみが舞いおりる    石浜西夏
【入選】
君がゐて僕等二人の聖樹かな        円美々
三日月と金星と僕冬の恋          八田昌代
退屈な男と女春炬燵            武田百合
ありがとうは別れの言葉チューリップ    熊谷温子
亡き妻を想う父の詩冬の雲         宮崎江美
逢いたくて逢いたくなくて雪が降る     野原めぐみ
石鹸玉あなたへ息が続かない        三玉一郎
雪が降るあなたの肩の向こう側       野原めぐみ
ヴィオラヴィオラいつ振り向いてくれますか 石浜西夏
手花火やバケツの底に溜まる恋       渡辺鮎美

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今夜はご馳走 七月:冷しゃぶ


 あっけなく梅雨明け。この時期からの猛暑では大地はますます熱くなる。まだ日のある夏の夕餉にはキンと冷えた料理が有難い。夏バテに効くという豚肉の冷しゃぶは美味しい。薄切り肉を熱湯に軽くくぐらせ脂肪を落として冷やし、胡瓜やレタス、トマト、スライス玉ねぎなど豊富な野菜や若布などの海藻と一緒に頬張る。タレはさっぱりのポン酢あるいはコクの胡麻ダレなど好み次第。ざくざくむしゃむしゃと食み音高く食べれば、酷暑も乗り切れる。

冷しやぶに野菜ざくざく夕餉とす 越智淳子


  • これまでの「今夜はご馳走」  越智淳子
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  • これまでの「今月の和菓子」 葛西美津子

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2022年3月刊行


『花のテラスで』
福島光加
花神社
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