リレーエッセイ040 母と息子       藤 英樹

  「母の日」は子どもが母への感謝をこめてカーネーションなどを贈る日。日本では五月の第二日曜がその日となっている。戦後、米国にならったもので、ややバタ臭い感じがしなくもないが、世界中の多くの国々に母の日はあるそうだ。日はさまざまだが、母を思う子の思いは国や民族、宗教を問わずということなのだろう。
私は数年前に母を亡くした。母が健在だったころは母の日に洋服などプレゼントを贈っていたが、亡くした後は母の日をほとんど意識しない。父はまだ健在だから父の日(六月の第三日曜)にはプレゼントを贈っている。してみると母の日というのは、母が健在でいる子どものための日なのではあるまいか。
いま私が母を強く意識するのは、母の日でもなければ母の忌日でもない。人生のさまざまな困難にぶつかり自分が苦しいときだ。人生を投げ出したくなったとき、決まって母が夢に現れる。そして「もう少し頑張ってみたら。見守っているから」と声をかけてくれる。すると勇気が湧いてくる。状況は何ら好転していなくても「何とかなるさ」という気になるのだ。不思議なものだ。
母と子のきずなは娘より息子のほうが強いのではないだろうか。自分が長男だからとくにそう思うのかもしれないが、歌人の石川啄木と母との関係などを見てもそうだし、あるいは能の『隅田川』や『三井寺』のような〈狂女物〉などを見ても、母の狂乱は息子ゆえと思うのだ。
たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩あゆまず 啄木
こういう思い丈の深さは、偏見かもしれないが、啄木や私のように母に愛された長男のものだという気がする。啄木の母カツは明治四十五年三月に亡くなるが、そのわずか一ヶ月余り後には、啄木も世を去っている。その三年前に朝日新聞の校正の仕事を得て、妻子と母を北海道から東京に呼び寄せたばかりだった。母を身近に置き、最期を看取り、啄木は安心したのだろうか。(季語歳理事  写真=カーネーション)

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総会にご参加ください

 第4回通常総会を下記のとおり開催します。正会員、法人会員は万障お繰り合わせのうえ、ご出席ください。追って総会資料を送付いたします。出席できない場合は総会資料の中にある委任状を事務局までご返送ください。

日時  6月24日(日曜日) 14時から(13時30分から入場できます)
会場  東京・青山「こどもの城」901号研修室

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リレーエッセイ 039 清明節   西川遊歩

 龍の年である今年の正月、中国の国宝「清明上河図」をこの目で拝もうと東京国立博物館に向かったが、朝から溢れかえる人波に退散。日を改めて、予め前売り券を購入し開館前から列に並び、それでも長ーい待ち時間の末、神品といわれる絵巻物に辿り着いた。「清明上河図」は、北宋の都、開封の清明節の情景を描いたものである。都の春の一日、約600人の人々が思い思いの表情で往来や川や船や橋で、絵巻をはみ出すごとくさざめいている。
 清明節は、二十四節気のひとつで春分の日から15日目、新暦4月5日頃にあたる。万物が明るくすがすがしく感じられる美しいころだ。中国では清明に墓参をする習慣があり、祝日である。墓参の後に踏青(郊外への野遊び)したり、鞦韆(しゅうせん=ぶらんこ)や蹴鞠や闘鶏などの遊びがさかんに行われた。
 清明節といえば、浙江省杭州の郊外で産し歴代の皇帝に献上されたことでも知られる龍井(ロンジン)茶は、清明節の前に摘んだ茶葉を「明前茶」と呼び、味、香りともに最高の品質として評価する。献上されたこの一番茶を皇帝が召し上がって、はじめて春到来とされたとも。清明節は墓参をする日から、祖先を供養する、さらに革命に殉じた烈士を祀る日にもなっていく。そして、あの天安門事件は、1976年4月5日に起きている。ちなみに今年、2012年の清明節は、4月4日です。(きごさい副代表 写真=中国茶)

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リレーエッセイ 038 花見  藤原智子

 高校生のときボート部に入っていた。練習の場は、荒川沿いにある競技用ボートコースだ。草の上でウォーミングアップをしてから、ボートを出す。春は水の上に浮かぶだけでやわらかい風を感じた。岸では八重桜がぽんぽんと弾むように咲いていた。
 しかし、気持ちのよい季節はすぐに過ぎた。ボートは1人、2人、4人乗りなどがあって、私は4人乗りボートをよく漕いだ。曲げた脚を一気に伸ばすその力をオールに伝え、ボートを進めてゆく。前の人の背中を見ながら漕ぐのだが、夏は、そのTシャツに塩が吹いていた。冬はウィンドブレーカーにうっすら雪が積もっていた。
 春一番が吹くと、あっという間にボートは岸に寄せられる。オールで岸を押してコースに戻っても、強い逆風で進まなかったり、追い風にオールが空回りしたりした。でも、この頃から、閉まっていた艇庫のシャッターも開き、だんだんとコースにボートが増えていく。
 毎年4月、このボートコースで「お花見レガッタ」というレースが開催される。高校、大学、実業団が参加する正式の競技大会で、シーズンの幕開けを告げる大会だ。二千メートルあるコースのゴール近くでは、応援スタンドを覆うようにソメイヨシノが咲く。(きごさいスタッフ)

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