俳句 | 季語 | 出典 |
貝寄風(かひよせ)に乗りて帰郷の船迅し | 貝寄風 | 長子 |
夕桜城の石崖裾濃なる | 桜 | 長子 |
春山にかの襞は斯くありしかな | 春の山 | 長子 |
ふるさとの春暁にある厠かな | 春暁 | 長子 |
鶯のけはひ興りて鳴きにけり | 鶯 | 長子 |
とらへたる蝶の足(あ)がきのにほひかな | 蝶 | 長子 |
ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道 | 木の芽 | 長子 |
おん顔の三十路人なる寝釈迦かな | 寝釈迦 | 長子 |
校塔に鳩多き日や卒業す | 卒業 | 長子 |
人々に四つ角ひろき薄暑かな | 薄暑 | 長子 |
乙鳥はまぶしき鳥となりにけり | 夏燕 | 長子 |
田を植ゑるしづかな音へ出でにけり | 田植 | 長子 |
七夕や男の髪も漆黒に | 七夕 | 長子 |
蟾蜍長子家去る由もなし | 蟇 | 長子 |
手の薔薇に蜂来れば我王の如し | 薔薇 | 長子 |
玫瑰や今も沖には未来あり | 玫瑰 | 長子 |
六月の氷菓一盞の別れかな | 六月 | 長子 |
起し絵の男をころす女かな | 起し絵 | 長子 |
香水の香ぞ鉄壁をなせりける | 香水 | 長子 |
秋の航一大紺円盤の中 | 秋 | 長子 |
曼珠沙華落暉も蘂(しべ)をひろげけり | 曼珠沙華 | 長子 |
白墨の手を洗ひをる野分かな | 野分 | 長子 |
蜩のなき代りしははるかかな | 蜩 | 長子 |
蜻蛉行くうしろ姿の大きさよ | 蜻蛉 | 長子 |
掃かれたる地にきはやかや秋の人 | 秋 | 長子 |
冬の水一枝の影も欺かず | 冬の水 | 長子 |
炭を焼く長き煙の元にあり | 炭焼 | 長子 |
木葉髪文芸長く欺きぬ | 木の葉髪 | 長子 |
冬すでに路標にまがふ墓一基 | 冬 | 長子 |
あたゝかき十一月もすみにけり | 十一月 | 長子 |
降る雪や明治は遠くなりにけり | 雪 | 長子 |
妻二タ夜あらず二タ夜の天の川 | 天の川 | 火の島 |
晩夏光バツトの函に詩を誌す | 晩夏 | 火の島 |
吾妻かの三日月ほどの吾子を胎(やど)すか | 三日月 | 火の島 |
雪女郎おそろし父の恋恐ろし | 雪女 | 火の島 |
妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る | 春昼 | 火の島 |
シヨパン弾き了へたるまゝの露万朶 | 露 | 火の島 |
焚火火の粉吾の青春永きかな | 焚火 | 火の島 |
万緑の中や吾子の歯生え初むる | 万緑 | 火の島 |
友もやゝ表札古りて秋に棲む | 秋 | 火の島 |
すつくと狐すつくと狐日に並ぶ | 狐 | 万緑 |
少年の見遣(みや)るは少女鳥雲に | 鳥雲に入る | 万緑 |
虹に謝す妻よりほかに女知らず | 虹 | 万緑 |
毒消し飲むやわが詩多産の夏来る | 立夏 | 万緑 |
白鳥といふ一巨花を水に置く | 白鳥 | 来し方行方 |
勇気こそ地の塩なれや梅真白 | 梅 | 来し方行方 |
蟷螂は馬車に逃げられし馭者のさま | 蟷螂 | 来し方行方 |
焼跡に遺る三和土や手毬つく | 手毬 | 来し方行方 |
空は太初の青さ妻より林檎うく | 林檎 | 来し方行方 |
種蒔ける者の足あと洽しや | 種蒔 | 来し方行方 |
わが背丈以上は空や初雲雀 | 雲雀 | 来し方行方 |
炎熱や勝利の如き地の明るさ | 炎熱 | 来し方行方 |
葡萄食ふ一語一語の如くにて | 葡萄 | 銀河依然 |
寒星や神の算盤(そろばん)ただひそか | 寒星 | 銀河依然 |
厚餡割ればシクと音して雲の峰 | 雲の峰 | 銀河依然 |
をみな等も涼しきときは遠(をち)を見る | 涼し | 銀河依然 |
獣屍の蛆如何に如何にと口を挙ぐ | 蛆 | 母郷行 |
真直(ます)ぐ往けと白痴が指しぬ秋の道 | 秋の道 | 美田 |
子千鳥の親を走せ過ぎ走せかへし | 千鳥 | 美田 |
咲き切つて薔薇の容(かたち)を超えけるも | 薔薇 | 美田 |
前へすすむ眼して鯛焼三尾並ぶ | 鯛焼 | 時機 |
旧景(きうけい)が闇を脱ぎゆく大旦(おほあした) | 大旦 | 時機 |
捨仔猫地に手をついてもうこれまで | 猫の子 | 時機 |
白馬の眼繞(めぐ)る癇脈雪の富士 | 雪 | 時機 |
日向ぼこ父の血母の血ここに睦め | 日向ぼこ | 時機 |
「日の丸」が顔にまつはり真赤な夏 | 夏 | 中村草田男全集5 |
蛾も睡るときあるらしや稿更くる | 蛾 | 中村草田男全集5 |
父一人ねんねこを負ひ山を負ひ | ねんねこ | 中村草田男全集5 |
初鴉大虚鳥(おほをそどり)こそ光あれ | 初鴉 | 中村草田男全集5 |
夢殿の夢の扉(とぼそ)を初日敲(う)つ | 初日 | 中村草田男全集5 |