俳句 季語 出典
風が吹く仏来給ふけはひあり 迎火 『五百句』
怒濤岩を噛む我を神かと朧の夜
人病むやひたと来て鳴く壁の蟬
穴を出る蛇を見て居る鴉かな 蛇穴を出づ
鶯や文字も知らずに歌心
亀鳴くや皆愚なる村のもの 亀鳴く
五月雨や魚とる人の流るべう 五月雨
遠山に日の当りたる枯野かな 枯野
秋風や眼中のもの皆俳句 秋の風
大海のうしほはあれど旱かな
桐一葉日当りながら落ちにけり 桐一葉
金亀虫擲つ闇の深さかな 金亀虫
凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり 墓参り
死神を蹴る力無き蒲団かな 蒲団
春風や闘志いだきて丘に立つ 春の風
年を以て巨人としたり歩み去る 行く年
天の川のもとに天智天皇と虚子と 天の川
我を指す人の扇をにくみけり
新しき帽子かけたり黴の宿
初空や大悪人虚子の頭上に 初空
白牡丹といふといへども紅ほのか 牡丹
流れ行く大根の葉の早さかな 大根
神にませばまこと美はし那智の滝
大いなるものが過ぎ行く野分かな 野分
川を見るバナナの皮は手より落ち バナナ
鴨の中の一つの鴨を見てゐたり 『五百五十句』
一夜明けて忽ち秋の扇かな 秋扇
たとふれば独楽のはぢける如くなり 独楽
焚火かなし消えんとすれば育てられ 焚火
春水や子を抛る真似しては止め 春の水
旗のごとなびく冬日をふと見たり 冬の日
山河こゝに集り来り下り簗 下り簗
龍の玉深く蔵すといふことを 龍の玉
大寒の埃の如く人死ぬる 大寒
鎌倉に実朝忌あり美しき 実朝忌
涼しさは下品下生の仏かな 涼し
松の雨ついついと吸ひ蟻地獄 蟻地獄
よろよろと棹がのぼりて柿挟む
鼕々と昇り来りし初日かな 初日
冬日濃しなべて生きとし生けるもの 冬の日
大仏に袈裟掛にある冬日かな 冬の日 『六百句』
水打てば夏蝶そこに生れけり 打水
示寂すといふ言葉あり朴散華 朴の花
大根を水くしやくしやにして洗ふ 大根
硝子戸におでんの湯気の消えてゆく おでん
茄子畠は紺一色や秋の風 秋の風
天地の間にほろと時雨かな 時雨
吹き上げて廊下あらはや夏暖簾 夏暖簾
温泉の客の皆夕立を眺めをり 夕立
白酒の紐の如くにつがれけり 白酒
山国の蝶を荒しと思はずや
敵といふもの今は無し秋の月
日のくれと子供が言ひて秋の暮 秋の暮
初笑深く蔵してほのかなる 初笑 『六百五十句』
世の中を遊びごゝろや氷柱折る 氷柱
草餅の重の風呂敷紺木綿 草餅
初蝶来何色と問ふ黄と答ふ 初蝶
己れ刺あること知りて花さうび 薔薇
いつ死ぬる金魚と知らず美しき 金魚
百丈の断崖を見ず野菊見る 野菊
風花の今日をかなしと思ひけり 風花
山里の雛の花は猫柳 猫柳
茎右往左往菓子器のさくらんぼ さくらんぼ
大夏木日を遮りて余りある 夏木
悔もなく誇もなくて子規忌かな 子規忌
爛々と昼の星見え菌生え
海女とても陸こそよけれ桃の花 桃の花
尼寺の戒律こゝに唐辛子 唐辛子
やはらかき餅の如くに冬日かな 冬の日
梅雨眠し安らかな死を思ひつゝ 梅雨
虚子一人銀河と共に西へ行く 天の川
人生は陳腐なるかな走馬燈 走馬燈
大空の片隅にある冬日かな 冬の日
春惜む命惜むに異らず 春惜しむ
月の庭ふだん気附かぬもの見えて
彼一語我一語秋深みかも 秋深し
去年今年貫く棒の如きもの 去年今年
世の様の手に取る如く炬燵の間 炬燵
ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に 椿 『七百五十句』
虫の音に浮き沈みする庵かな
短夜や夢も現も同じこと 短夜
苔寺を出てその辺の秋の暮 秋の暮
悪なれば色悪よけれ老の春 新春
明易や花鳥諷詠南無阿弥陀 明易
すぐ来いといふ子規の夢明易き 明易
地球一万余回転冬日にこにこ 冬の日
自ら風の涼しき余生かな 涼し
人の世の悲し悲しと蜩が
我を見て舌を出したる大蜥蜴 蜥蜴
この池の生々流転蝌蚪の紐 蝌蚪
山の背をころげ廻りぬ春の雷 春の雷
蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな 蜘蛛
風生と死の話して涼しさよ 涼し
朝顔を一輪挿に二輪かな 朝顔 同年
ほのかなる空の匂ひや秋の晴 秋晴
灯をともす掌にある春の闇 春の闇
春の山屍をうめて空しかり 春の山
独り句の推敲をして遅き日を 遅日
子規逝くや十七日の月明にの 立待月 『贈答句集』
ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ