蓮(はす) 晩夏
【子季語】
はちす、蓮の花、蓮華、蓮池、紅蓮、白蓮
【関連季語】
蓮の葉、蓮の浮葉、蓮の実、蓮の飯、蓮見、蓮根掘る
【解説】
仏教では涅槃の境地を象徴する神聖な花とされ、仏はこの花の上に座す。また、泥の中から伸びて美しい花を咲かせるところから、中国では聖人の花とされた。花が終わったあとの実床が蜂の巣に似ていることから「はちす」といわれ、和名の「はす」はそれを略したものである。実床の中の黒い実と地下茎(蓮根)は食用になる。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
勝間田の池はわれ知る蓮なししか言ふ君が鬚なき如し 作者不詳『万葉集』
蓮咲くあたりの風もかをりあひて心の水を澄ます池かな 藤原定家『夫木和歌抄』
【科学的見解】
蓮(ハス)は、スイレン科の多年生水草。原産地はインドとされ、池、沼、水田などに栽培される。葉は扁円形で径は四、五十センチ。盛夏のころ、水底の泥の中から長い花茎を伸ばし、夜明けに、紅色、淡紅色または白色の多弁の美しい花を開く。れんこんとして一般に馴染みのある根茎は、節を多く持ち、先端が肥大する。食用以外に観賞用としても多くの園芸品種が作出されている。原種の近縁種としては、キバナハスが知られている。(藤吉正明記)
【例句】
さはさはとはちすをゆする池の亀
鬼貫「大悟物狂」
雨の矢に蓮を射る蘆戦へり
芭蕉「伝真蹟」
蓮の香に目をかよはすや面の鼻
芭蕉「笈日記」
鯉鮒のこの世の池や蓮の花
許六「正風彦根躰」
蓮の香や水をはなるる茎二寸
蕪村「蕪村句集」
戸を明けてに蓮の主かな
蕪村「落日庵句集」
白蓮に人影さはる夜明かな
蓼太「蓼太句集初編」
白蓮に夕雲蔭るあらしかな
白雄「白雄句集」
蓮の花咲くや淋しき停車場
正岡子規「子規句集」
ほのぼのと舟押し出すや蓮の中
夏目漱石「漱石全集」
蒲の穂はなびきそめつつ蓮の花
芥川龍之介「澄江堂句集」
舟道の桑名は蓮の花ざかり
長谷川櫂「新年」