鳰の浮巣(におのうきす、にほのうきす)三夏
【子季語】
鳰の巣、鷭の浮巣、浮巣
【解説】
沼、湖などに浮かべて作った「かいつぶり」の巣のこと。葦や水草を集めて作り、葦の茎などにからめて漂わないようにしてある。雌雄交互に抱卵し、雛がかえってからもしばらく巣に留まる。雛を背中に乗せて巣の辺りを泳ぐ姿はかわいらしい。琵琶湖は「鳰の海」と呼ばれる。
【来歴】
『俳諧古今抄』(享保15年、1730年)に所出。
【文学での言及】
三島江の鳰の浮巣も乱れ蘆の末葉にかかる五月雨のころ 藤原家隆『夫木和歌抄』
【例句】
五月雨に鳰の浮き巣を見に行む
芭蕉「笈日記」
世は水のまにまに鳰の浮巣せり
二柳「奉納其二集」
鳰の巣の浮み出けり宵月夜
成美「いかにいかに」
鳰の巣の一本草をたのみ哉
一茶「七番日記」
鳰の巣に親鳥もどるおもみ哉
吟仁「夢占」
鳰の巣を抱いて咲くや菱の花
遅望「類題発句集」
流さるヽ浮巣に鳰の声悲し
正岡子規「子規全集」
水揺れて鳰の浮巣のあるらしく
長谷川櫂「新年」