【関連季語】
秋の水
【解説】
秋になって水が澄むこと。秋は大気が澄み渡るので、水の流れにも清澄感を覚える。
【例句】
一むらの木賊の水も澄みにけり
鈴木花簑「同人句集」
流れ澄む水にあるもの柳影
原石鼎「原石鼎全句集」
水澄むやとんぼうの影ゆくばかり
星野立子「立子句集」
水澄みて四方に関ある甲斐の国
飯田龍太「山の木」
水澄むやこの谷の石青むほど
長谷川櫂「新年」
【子季語】
秋水、水の秋
【関連季語】
水澄む
【解説】
秋になって澄み渡る水である。大気同様、秋は水も清らかになる。名刀のたとえに「三尺の秋水」という言葉があるが、「三尺」は剣の長さであり、その剣が澄み渡っていることの形容である。
【来歴】
『改正月令博物筌』(文化5年、1808年)に所出。
【文学での言及】
秋風にかげふきはらふ谷の戸に思ふもきよくすめる山水 藤原定家『夫木和歌抄』
【例句】
秋の水淡路島根をかこひけり
去来「よとぎの詞」
二またに細るあはれや秋の水
蕪村「明和六年句稿」
秋の水心の上を流るなり
暁台「暁台句集」
秋の水泥しづまつて魚もなし
正岡子規「子規句集」
病む父のほとりに母や水の秋
長谷川櫂「蓬莱」
【子季語】
花野原、花野道、花野風
【関連季語】
秋の七草
【解説】
萩、薄、桔梗、吾亦紅、釣舟草など秋の草花が咲き乱れる野原のこと。春の華やぐ野とは違い、秋風に吹かれる花々には哀れをさそう趣がある。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
村雨の晴るる日影に秋草の花野の露や染めてほすらむ 大江貞重『玉葉集』
【例句】
面白く富士に筋違ふ花の哉
嵐雪「風の末所収」
川音の昼はもどりて花野かな
千代女「千代尼句集」
吹き消したやうに日暮るる花野かな
一茶「伊丹酒船の記」
から駕籠の近道戻る花野かな
正岡子規「子規句集」
雪峰へ日影去りにける花野かな
渡辺水巴「水巴句集」
荒海のしぶきをかぶる花野かな
長谷川櫂「新年」
【子季語】
秋山、秋嶺、秋の嶺、山澄む、山の秋、秋の岳
【解説】
澄んだ空気のなかでくっきりと聳え立つ山である。夏の名残をとどめる青々とした山から、実りの山へとうつりかわり、やがて晩秋には紅葉に彩られる。ハイキングやきのこ採、紅葉狩りなどで賑わい見せる山でもある。
【来歴】
『俳諧線車大成』(寛政11年、1799年)に所出。
【文学での言及】
秋の山もみぢを幣と手向くればわれさへぞ旅心ちする 紀貫之『古今集』
【例句】
秋の山ところどころに烟たつ
暁台「暁台句集」
立ち去る事一里眉毛に秋の峰寒し
蕪村「蕪村句集」
家二つ戸の口見えて秋の山
道彦「蔦本集」
入相のあとや明けにき秋の山
支考「西の雲」
秋の山人顕れて寒げなり
一茶「文化句帖」
秋山や駒もゆるがぬ鞍の上
其角「続虚栗」
信濃路やどこ迄つゞく秋の山
正岡子規「子規句集」
秋の山南風を向いて寺二つ
夏目漱石「漱石全集」
牧ここを広げんと思ふ秋の山
大須賀乙字「乙字句集」
秋の山縁広ければ臥して見る
松本たかし「松本たかし句集」
頂上の道二すぢや秋の山
原石鼎「花影」
銀閣寺裏は切り立つ秋の山
長谷川櫂「初雁」
【子季語】
水霜
【関連季語】
露、霜
【解説】
露が結氷して半ば霜となり、うっすら白くなったもの。水霜ともいう。万葉時代からしばしば詩歌に詠まれてきた。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
露霜にあへる黄葉を手折り来て妹とかざしつ後は散るとも 泰許遍週麻呂『万葉集』
秋萩の技もとををに露霜おき寒くも時はなりにけるかも 作者不詳『万葉集』
露霜の消やすき我が身老いぬともまた若反り君をし待たむ 作者不詳『万葉集』
萩が花散るらむ小野の露霜にぬれてをゆかむさ夜はふくとも よみ人しらず『古今集』
草がれの冬まで見よと露霜のおきてのこせる白菊の花 曾根好忠『詞花集』
露霜の夜半におきゐて冬の夜の月見るほどに袖はこほりぬ 曾根好忠『新古今集』
【例句】
露霜に軽し雀の笹枕
樗堂「萍窓集」
露じもや丘の雀もちちとよぶ
一茶「享和句帖」
乱菊にけさの露霜いとゞしき
鈴木花蓑「鈴木花蓑句集」
【子季語】
露寒し、露冴ゆ
【関連季語】
露
【解説】
晩秋の露が霜に変わろうとするころの寒さをいう。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
雁がねは雲居がくれになきて来ぬ萩の下葉の露寒きころ 伏見院『新拾遺集』
おきあかす露さへさむき月影になれて幾夜か衣うつらむ 性助入道親王『続拾遺集』
露冴ゆる秋の末葉の浅茅原虫の音よりぞかれはじめける 源具親『新続古今集』
【例句】
竹縁もいま露寒し酒のあと
太祇「真蹟色紙」
大粒に置く露寒し石の肌
青蘿「青蘿発句集」
露寒し我足跡を又帰る
乙ニ「をのゝえ草稿」
露寒や榎のもとの塒鳥
桃季「雁風呂」
何鳥の待たるる罠ぞ露寒み
孔桀「寂砂子集」

【子季語】
白露、朝露、夕露、夜露、初露、上露、下露、露の玉、露葎、露の秋、露の宿、露の袖、袖の露、芋の露、露の世、露の身、露けし
【関連季語】
露寒、露霜
【解説】
草の葉などに結んだ水の玉。露は一年中発生するが、秋に最も多いので単に露といえば秋である。露はすぐ消えるので、はかないものの象徴でもある。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
わが背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露にわが立ちぬれし 大伯皇女『万葉集』
白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競ひて萩の遊びせむ 作者不詳『万葉集』
雁が音の寒き朝明の露ならし春日の出をもみだすものは 作者不詳『万葉集』
鳴きわたる雁の涙や落ちつらむもの思ふやどの萩の上の露 よみ人しらず『古今集』
白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける」文屋朝康『後撰集』
みさぶらひ御笠とまをせ宮城野の木の下露は雨にまされり 東歌『古今集』
山がくれ風に知らすな白露の玉ぬきかくるしののをすすき 藤原公実『堀川百首』
浅茅生のしのにをしなみ置く露をまことの玉と思はましかは 藤原基悛『堀川百首』
露蘭叢二滴ツテ寒玉白シ、風松葉ヲ銜ムデ雅琴清シ 『和漢即詠集』
【実証的見解】
露点とは大気中に含まれる水蒸気が凝結を始める温度であり、露は放射冷却などで気温が露点以下になったとき、草の葉や石の上などに凝結する水滴である。夏の終わりから秋にかけて多く発生するが、冬はこれが凍ってしまうほど低温になるので、「霜」になることが多い。
【例句】
今日よりは書付消さん笠の露
芭蕉「奥の細道」
露とくとくこころみに浮世すゝがばや
芭蕉「甲子吟行」
西行の草鞋もかゝれ松の露
芭蕉「笈日記」
硯かと拾ふやくぼき石の露
芭蕉「芭蕉書簡」
みな出でて橋をいたゞく霜路哉
芭蕉「泊船集書入」
しらつゆやさつ男の胸毛ぬるるほど
蕪村「蕪村全集」
分けゆくや袂にたまる笹の露
蝶夢「熊野詣」
露の世は露の世ながらさりながら
一茶「おらが春」
蔓踏んで一山の露動きけり
原石鼎「花影」
金剛の露ひとつぶや石の上
川端茅舎「川端茅舎句集」
露の玉蟻たぢたぢとなりにけり
川端茅舎「川端茅舎句集」
生きるとは死なぬことにてつゆけしや
日野草城「人生の午後」
シヨパン弾き了へたるまゝの露万朶
中村草田男「火の島」
白露や何の果なる寺男
松本たかし「鷹」
猫と生れ人間と生れ露に歩す
加藤楸邨「起伏」
露の世に間に合はざりしことばかり
星野立子「句日記Ⅰ」
鶏鳴に露のあつまる虚空かな
飯田龍太「遅速」
億万の露の命の一つかな
長谷川櫂「初雁」
露けしや奥の座敷に灯を入れて
高田正子「花実」
【子季語】
朝霧、夕霧、夜霧、山霧、野霧、狭霧、霧の帳、霧襖、霧の籬、霧の海、霧の雫、霧雨、霧時雨
【関連季語】
霞、夏の霧、冬の霧
【解説】
秋、細かな水の粒子が白い煙のように立ち込める現象。同じ現象は秋ばかりではなく春にも起こるが、これは霞(春の季語)と呼ぶ。遠くのどかににたなびく「霞」に対して、「霧」は冷やかに立ちこめる。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
秋霧の晴るるときなき心には立ちゐの空も思ほえなくに 凡河内躬亘『古今集』
秋霧の立ちし隠せば紅葉ばはおぼつかなくも散りぬべらなり 紀貫之『後撰集』
秋霧の晴れぬあしたの大空を見るがごとくも見えぬ君かな よみ人しらず『拾遺集』
【実証的見解】
霧は、水蒸気を含んだ大気の温度が下がり、大気中に含まれていた水蒸気が微小な水滴となって発生する場合と、大気中に水蒸気が補給され、大気が飽和状態になって発生する場合がある。冷えてできる霧には放射霧、移流霧などがあり、水蒸気が補給されてできる霧には蒸気霧、前線霧などがある。放射霧は、地表面から熱が放射され地面が冷えて発生する。移流霧は、温かく湿った空気が冷たい地面または水面へ移流し、そこで冷やさて発生する。蒸気霧は、温かく湿った空気と冷たい空気と混ざって発生し、前線霧は、前線付近の雨粒から蒸発した水蒸気が飽和状態となって発生する。
【例句】
霧時雨富士を見ぬ日ぞ面白き
芭蕉「野ざらし紀行」
曙や霧にうづまく鐘の声
芭蕉「続句空日記」
松なれや霧えいさらえいと引くほどに
芭蕉「翁草」
雲霧の暫時百景をつしけり
芭蕉「句選拾遺」
湯の名残幾度見るや霧の下
芭蕉「真蹟拾遺」
朝霧や村千軒の市の音
蕪村「蕪村句集」
有明や浅間の霧が膳をはふ
一茶「株番」
樒さす手からも霧は立ちにけり
一茶「旅日記」
故郷をとく降り隠せ霧時雨
一茶「七番日記」
熊笹のさゝやき交はす狭霧かな
前田普羅「定本普羅句集」
霧にひらいてもののはじめの穴ひとつ
加藤楸邨「吹越」
【子季語】
稲光、稲の殿、稲の妻、稲の夫、稲つるみ、いなつるび、いなたま
【関連季語】
雷
【解説】
空がひび割れるかのように走る電光のこと。空中の放電現象によるものだが、その大音響の雷が夏の季語なのに対し、稲妻が秋の季語となっているのは、稲を実らせると信じられていたからである。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
秋の田の穂の上をてらす稲妻の光のまにもわれや忘るる よみ人しらず『古今集』
はかなしやあれたる宿のうたたねにいなづま通ふ手枕の露 後京極摂敬『六百番歌合』
【例句】
稲妻を手にとる闇の紙燭かな
芭蕉「続虚栗」
稲妻に悟らぬ人の貴さよ
芭蕉「己が光」
あの雲は稲妻を待つたより哉
芭蕉「陸奥鵆」
稲妻やかほのところが薄の穂
芭蕉「続猿蓑」
いなづまや闇の方行五位の声
芭蕉「続猿蓑」
稲妻や海の面をひらめかす
芭蕉「蕉翁句集」
いなづまや堅田泊りの宵の空
蕪村「蕪村句集」
いなづまやきのふは東けふは西
其角「曠野」
稲妻のかきまぜて行く闇夜かな
去来「菊の香」
いなづまや秋きぬと目にさやの紋
立圃「そらつぶて」
稲妻に近くて眠り安からず
夏目漱石「漱石全集」
いなびかり女体に声が充満す
加藤楸邨「吹越」なり明日ある
ぼた餅の空を稲妻走りけり
長谷川櫂「新年」