リレーエッセイ 038 花見 藤原智子
高校生のときボート部に入っていた。練習の場は、荒川沿いにある競技用ボートコースだ。草の上でウォーミングアップをしてから、ボートを出す。春は水の上に浮かぶだけでやわらかい風を感じた。岸では八重桜がぽんぽんと弾むように咲いていた。
しかし、気持ちのよい季節はすぐに過ぎた。ボートは1人、2人、4人乗りなどがあって、私は4人乗りボートをよく漕いだ。曲げた脚を一気に伸ばすその力をオールに伝え、ボートを進めてゆく。前の人の背中を見ながら漕ぐのだが、夏は、そのTシャツに塩が吹いていた。冬はウィンドブレーカーにうっすら雪が積もっていた。
春一番が吹くと、あっという間にボートは岸に寄せられる。オールで岸を押してコースに戻っても、強い逆風で進まなかったり、追い風にオールが空回りしたりした。でも、この頃から、閉まっていた艇庫のシャッターも開き、だんだんとコースにボートが増えていく。
毎年4月、このボートコースで「お花見レガッタ」というレースが開催される。高校、大学、実業団が参加する正式の競技大会で、シーズンの幕開けを告げる大会だ。二千メートルあるコースのゴール近くでは、応援スタンドを覆うようにソメイヨシノが咲く。(きごさいスタッフ)
