きごさい+「和菓子で楽しむ秋」レポート
◆日本人は栗が大好き
栗は縄文時代から食べられていたようで、三内丸山遺跡にもその痕跡が残っている。甘くてアクが少なくて腹持ちがよくて、昔の人も栗が生るのを心待ちにしたことだろう。それは現代の私たちも同じ。店頭に栗や栗のお菓子が出るとそわそわする。虎屋の栗の生菓子は必ず新栗を使うので、その年の天候によって違う栗の出来や入荷状況を見極め、販売開始日を決めるそうだ。
受付には栗蒸羊羹、栗鹿の子、栗粉餅と、虎屋謹製の菓子が三種並び、参加者は楽しそうに迷いながら一つを選び席に着く。私は栗粉餅をいただいた。栗粉餅の名は虎屋の元禄時代の史料にあり、その頃は餅に栗の粉をまぶしたような素朴なものだったと考えられるが、だんだん手の込んだ菓子へと変化していったという。さて、目の前の栗粉餅、断面は求肥とこし餡と栗のそぼろの見事な三層、目も楽しみながら美味しくいただいた。
栗鹿の子はつやつやと秋の日の輝き。栗蒸羊羹は切り口の模様がみんな違うのが楽しい。講座の後の句会では、羊羹を闇と見立てたり、栗を月のかけら、光、木もれ日と表現したり、栗羊羹の句がたくさん出た。
◆季節の移ろいの表現
夏の菓子「青梨」が、八月後半には「黒梨」で登場。形は同じだが、色合いで秋の気配を表現しているという。最初は黒い梨?とびっくりしたが、「黒梨」の画像を見ていると秋めいた感じがするから不思議だ。実物の菓子「黒梨」を見たら、そして味わったらなおさらだろう。上生菓子は半月ごとにラインアップが変るという。菓子と菓銘が季節の移ろいを教えてくれる。そぼろをつけた菓子、きんとん製は、形は同じだが、そぼろの色、配色、配分が少しずつ変っていき、秋の深まりを感じさせてくれる。それぞれの菓銘も詩的で、菓子職人の感性と技量のすばらしさを感じた。
◆行事とモチーフ
秋の代表的な行事、モチーフと菓銘の資料が配られ、画像とともに秋の和菓子が紹介された。
1.行事(重陽、敬老の日、月見、お彼岸など)
2.植物(菊、桔梗、薄、紅葉、稲穂)
3.果物(柿、栗)
4.動物(雁、稲雀、鹿)
同じモチーフでも、その姿・形・色を具体的にデザインしたものと、イメージを抽象的に表現したものがあるのが面白い。具象性の菓子は、例えば菊の菓子は花びら一枚一枚まで緻密に作られていてそのリアルさ、美しさに驚いた。抽象的な菓子のほうは、菓銘を頼りに、デザインした人の意図を想像するのだが、はっとひらめく菓子もあれば、まったくわからない菓子もある。中山さんの解説を聞いてやっと納得、同時に職人の発想力に感心した。
現在は、抽象的なお菓子の意匠になかなか関心が集まらず、わかりやすい具象性のある菓子の方が人気なのが少しさびしい、と中山さんは語った。
◆見立て、意匠
様々な文化が花開いた江戸時代は、菓子においても遊び心があふれていたという。今は作られていないいくつかの菓子の絵図がスクリーンに映った。ほとんどが見立て、つまり抽象性の菓子のようだ。何を表現しているのかよくわからなかったが、中山さんの説明で、これは波、ここは千鳥と聞くとそのように見えてくるから不思議だ。和歌、古典を踏まえた菓子も多く、当時は、菓子職人も客も相当な教養、想像力、そして遊び心があったのだろう。見立ての絵解きを愉しみ喜ぶ客がいてこそ、職人も意匠と技術に腕を磨いていったに違いない。
◆羊羹
羊羹の意匠もさまざまで奥深い。「月の眺(nagame])」という羊羹は、月の満ち欠けに想を得た意匠(デザイン)で、日ごと姿を変えてゆく月を一棹の中に表現したという。切るところによって切り口に三日月や弓張り月があらわれるのだろうか。虎屋文庫資料展「虎屋文庫の羊羹・YOKAN」展(11/1~12/10、赤坂虎屋ギャラリー)で展示されるという。ぜひ見に行きたい。また、待望の「羊羹」の本がまもなく出版される。こちらも楽しみ。
中山さんの楽しく親しみやすい語り口にあっという間の一時間だった。専門的なお話もわかりやすく、日本の和菓子文化の豊かさ、日本人の美意識と感性に触れた気がした。そして、何より「お菓子って美味しいだけでなく楽しい。」という、中山さんの思いが、私たちにも伝染?したようだ。(葛西美津子記)
<句会報告>
◆中山圭子選
【☆特選】
羊羹の闇に飛びくる栗小僧 清水今日子
【特選】
羊羹や月のかけらの栗散らし 西川遊歩
笑ふ目のごとき焼印雁渡る 西川遊歩
栗を煮る縄文土器の火焔かな 鈴木伊豆山
切り口は一期一会の栗羊羹 青塚美恵子
黒梨や一人で過す夜の秋 山本桃潤
栗鹿の子宝珠のごとく輝けり 清水今日子
木もれ日を一棹にせり栗羊羹 長谷川櫂
栗羊羹月の光をちりばめて 葛西美津子
◆長谷川櫂選
【☆特選】
亥の子餅かういふものといふでなく 竹下米花
【特選】
暗闇に月さし入るや栗羊羹 飛岡光枝
日本の秋のおごりや栗羊羹 飛岡光枝
栗羊羹月山に月出てゐるか 上村幸三
落雁の秋ほろほろとこぼれけり 趙栄順
着綿のことに心に入む身かな 葛西美津子
美しや栗羊羹の切り口は 山本桃潤
【入選】
風音の一夜明けたり栗拾はん 金澤道子
目も楽し口も楽しや栗粉餅 金澤道子
ひと晩を寝かせて栗の渋皮煮 金澤道子
うれしさの音引き摺つて千歳飴 飛岡光枝
小さき手に月見団子をひとつづつ 飛岡光枝
栗羊羹月の光をちりばめて 葛西美津子
この山の熊よろこばす栗の秋 葛西美津子
栗の菓子栗みつけたるうれしさよ 趙栄順
大いなる遺愛の湯呑み栗鹿の子 中丸佳音
やれうれし栗きんとんの秋来る 山本孝予
栗鹿の子宝珠のごとく輝けり 清水今日子
初雁や月にかかりし二羽三羽 山本桃潤

