リレーエッセイ015 父の日 川村玲子
父が存命の頃は「父の日」といわれてもなんだかなじみが薄かった。誕生日のプレゼントをすることはあっても、「父の日」は、なにも特別なことをしなかった。子供の頃、ある朝、雨戸を明けると庭が一面、真っ赤な罌粟の野原に変わっていたことがある。「手入れしてある庭にやみくもに種をまき散らすなんて」と母には大不評だったが、わたしたち子供たちは大喜び。背丈ほどもある緑が風に揺れるたびに、庭いっぱいに真紅の紙のように軽い花が揺れる。
めちゃくちゃでアナーキーな「お父様の魔法」は、その年一度きりだったが、数日間夢のようにつづいた。毎年5月から6月には、見渡すかぎり真っ赤な罌粟の野原に思いがけず行き逢うことがある。そしてまもなく「父の日」が来る。「父の日」は「父を思い出す日」になったのかもしれない。(季語歳監事 写真=罌粟の花)
