夜長(よなが)三秋
【子季語】
夜永、長き夜、長夜
【関連季語】
日短
【解説】
秋の夜の長いことをいう。秋分が過ぎると、昼よりも夜が長くなり気分的にも、夜の長さが身にしみる。残暑もなくなり、夜業や読書にも身が入る。春の「日永」に対応する季語である。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
今造る久邇の都に秋の夜の長きに独り寝るが苦しさ 大伴家持『万葉集』
秋ノ夜長シ、夜長クシテ眠ルコト無ケレバ天モ明ケズ、耿々タル残ノ燈ノ壁二背ケル影、蕭々タル暗キ雨ノ窓ヲ打ツ声『和漢朗詠集』
【実証的見解】
なぜ「夜長」は秋の季語で「日短」は冬の季語なのか。暑い夏を経て涼しい夜が長くなるのを賞嘆するのが「夜長」であり、冬の暖かな昼間を惜しむ思いが「日短」なのである。
【例句】
ばらばらと夜永の蚤のきげんかな
一茶「七番日記」
耳際に松風の吹く夜永かな
一茶「七番日記」
夜長さや処もかへず茶立虫
白雄「白雄句集」
夜永さに筆とる旅の覚書
几菫「晋明集ニ稿」
ひとしきりひだるうなりて夜ぞ長き
野水「阿羅野」
語るにも夜ながくなりて別れけり
北枝「猿丸宮集」
夜長人耶蘇をけなして帰りけり
前田普羅「普羅句集」
夜長寝てその後の雁は知らざりき
日野草城「花氷」
よそに鳴る夜長の時計数へけり
杉田久女「杉田久女句集」
襖絵の鴉夜長を躍り居る
原石鼎「花影」
妻がゐて夜長を言へりさう思ふ
森澄雄「所生」
常世なる長鳴鶏の夜長かな
長谷川櫂「初雁」