蚕(かいこ、かひこ) 晩春
【子季語】
桑子、春蚕、毛蚕、蟻蚕、透蚕、野蚕
【関連季語】
繭、夏蚕、秋蚕、蚕蛾
【解説】
絹糸をとるために飼育される蚕の幼虫。桑の葉を食べて繭を作る。
【来歴】
『俳諧初学抄』(寛永18年、1641年)に所出。
【実証的見解】
蚕はカイコガ科に属する昆虫の幼虫で、桑を食餌として蛹の繭を作る。蚕は、家畜化された昆虫で、人間の管理なしでは生きられない。卵、幼虫、蛹、成虫という完全変態をおこなう。孵化したての幼虫は、毛で覆われ毛蚕(けご)と呼ばれる。また、蟻のようであるため蟻蚕(ぎさん)とも呼ばれる。桑の葉を食べて成長し、「眠」(脱皮のための活動停止期)と脱皮を四回繰り返し、約四週間で体重が一万倍ほどになる。十分発育して桑を食べなくなると蚕の体は透きってくる。これが繭を作り始める兆候であり、この蚕を、一つ一つ拾い分けて蚕簿(まぶし)に移し替える。これが蚕の上蔟(あがり)と呼ばれる。蚕は蚕簿のなかで絹糸をはいて繭玉を作り、蚕自身は繭玉の中で蛹になる。上蔟から一週間ほどで蚕簿から繭をもぎとる。これが繭もきである。もぎ取った繭は生繭といわれ、これを日に干してなかの蛹を殺す。これが繭干しである。この繭を煮て絹糸をほぐれやすくしてから糸を取る。
【例句】
月更けて桑に音ある蚕かな
召波「春泥庵句集」
ことしより蚕はじめぬ小百姓
蕪村「蕪村俳句集」
姑のひとりごといふかいこ哉
湘水「淡路島」
さまづけで育てられたる蚕かな
一茶「七番日記」
首あげて人なつかしの蚕かな
佐藤紅録「春夏秋冬」
ひとつづつ冷たく重く蚕かな
長谷川櫂「天球」