若鮎(わかあゆ) 晩春
【子季語】
小鮎、鮎の子、稚鮎、上り鮎
【関連季語】
鮎、落鮎
【解説】
海で育った鮎は二、三月頃から群れを成して川を遡る。これが若鮎である。体長四~六センチくらい。琵琶湖で生まれた子鮎を捕らえしばらく育ててから各地の川へ放流するのを放ち鮎という。
【来歴】
『俳諧初学抄』(寛永18年、1641年)に所出。
【実証的見解】
鮎はアユ科の魚。川の下流域で孵化した稚魚はいったん海に入りプランクトンなどを食べて成長する。五センチくらいに成長した鮎は川に戻り、三月から五月ころにかけて遡上を始める。川の上流から中流域にたどり着いた幼魚は櫛形に変形した歯で、岩などに付着したケイソウ類を主食とする。一段と大きくなった鮎は縄張りを作るようになり、縄張りに入ってくる別の鮎に攻撃を仕掛ける。この性質を利用した釣が「友釣り」である。秋になると鮎は、体が橙と黒の婚姻色に変化し、産卵のため下流へ落ち始める。このころの鮎は「錆鮎、落鮎」と呼ばれる。産卵した鮎は、体力を消耗して多くは死んでしまう。それゆえ鮎は、年魚ともいわれる。
【例句】
鮎の子のしら魚送る別哉
芭蕉「続猿蓑」
挑灯で若鮎を売る光かな
太祇「太祇句選」
若鮎や谷の小笹も一葉行く
蕪村「落日庵日記」
蓼はまだつばな穂に出て小鮎鮓
也有「羅葉集」
若鮎の鰭ふりのぼる朝日かな
蓼太「蓼太句集」
花の散る拍子に急ぐ小鮎哉
一茶「七番日記」
わか鮎は西へ落花は東へ
一茶「七番日記」
よく見れば小鮎走るや水の底
吟江「推敲日記」
若鮎の二手になりて上りけり
正岡子規「寒山落木」
玉川や小鮎たばしる晒し布
正岡子規「子規句集」
鮎の子や御幸の沙汰も仄かにて
石井露月「露月句集」
若鮎の花の姿を田楽に
長谷川櫂「富士」