椿(つばき)三春
【子季語】
山茶、山椿、乙女椿、白椿、紅椿、一重椿、八重椿、玉椿、つらつら椿、落椿、散椿、 藪椿、雪椿
【関連季語】
冬椿、椿の実
【解説】
椿は、春を代表する花。万葉集のころから歌にも詠まれ日本人に親しまれてきた。つやつやした肉厚の葉の中に真紅の花を咲かせる。花びらが散るのではなく、花ひとつが丸ごと落ちるので落椿という言葉もある。最も一般的な藪椿のほか、八重咲や白椿、雪椿などの種類もある。
【来歴】
『滑稽雑談』(正徳3年、1713年)に所出。
【文学での言及】
巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ思はな巨勢の春野を 坂門人足『万葉集』
あしひきの八峯の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君 大伴家持『万葉集』
【科学的見解】
椿の中で最もよく見られるヤブツバキは、在来のツバキ科ツバキ属の常緑高木で、北海道を除く日本各地の沿海地や山地に自生する。高さは大きいもので十五メートルにもなる。樹皮は灰色、厚く固い葉は互生し、長さ五~十センチくらいの長卵形で、ふちには細かい鋸歯がある。二月から四月にかけて、枝先に赤色の花をつける。白い蘂は花の中心部に集合して筒状になり、先端部は黄色。蒴果は直径五センチくらいで丸く、中の種からは椿油が採れる。
ユキツバキは日本海側の多雪地帯の産地に自生する常緑低木。しなやかな枝は、下部からよく分れ、高さ二メートルほどになる。葉はの広卵形でやや薄く光沢がある。花弁はヤブツバキより小さく雄しべは短い。蘂は鮮やかな黄色で花の中央に集合する。蒴果は三センチくらいの球形。皮が厚く、種子はヤブツバキよリ大きい。(藤吉正明記)
【例句】
鶯の笠おとしたる椿かな
芭蕉「猿蓑」
椿落て昨日の雨をこぼしけり
蕪村「蕪村遺稿」
ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に
高浜虚子「七百五十句」
赤い椿白い椿と落ちにけり
河東碧梧桐「新俳句」
椿落つる我が死ぬ家の暗さかな
前田普羅「普羅句集」
いま一つ椿落ちなば立去らん
松本たかし「松本たかし句集」
流れ来し椿に添ひて歩きけり
松本たかし「松本たかし句集」
流れ行く椿を風の押しとどむ
松本たかし「松本たかし句集」
一水の迅きに落つる椿かな
日野草城「花氷」
夜の椿果肉のごとき重さもつ
加藤楸邨「まぼろしの鹿」
一花揺れ二花揺れ椿みんな揺れ
星野立子「春雷」
ひとつ咲く酒中花は我が恋椿
石田波郷「酒中花」
ふり出して雪ふりしきる山つばき
森澄雄「鯉素」
家中の硝子戸の鳴る椿かな
長谷川櫂「天球」
顔あらふ水に椿の挿されある
高田正子「玩具」