藤(ふじ、ふぢ) 晩春
【子季語】
山藤、野藤、白藤、八重藤、野田藤、赤花藤、藤の花、南蛮藤、 藤波、藤棚、藤見、藤房
【関連季語】
藤の実
【解説】
藤は晩春、房状の薄紫の花を咲かせる。芳香があり、風にゆれる姿は優雅。木から木へ蔓を掛けて咲くかかり藤は滝のようである。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君 大伴四綱『万葉集』
恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり 山部赤人『万葉集』
よそに見てかへらむ人に藤の花はひまつはれよ枝は折るとも 僧正遍照『古今集』
み吉野のおほかたはのべの藤浪のなみにおもはばわが恋ひめうあは 読人知らず『古今集』
紫の藤の花をばさと分くる風ここちよき朝ぼらけかな 与謝野晶子『火の鳥』
【科学的見解】
藤は、マメ科フジ属の落葉木本の総称で、在来種として山地に自生するほか、観賞用として庭や公園などにも植えられる。フジ属には、フジ(別名:ノダフジ)とヤマフジの二種が存在し、どちらも四月ころ、房状の薄紫の花を咲かせる。葉はどちらも、奇数羽状複葉で、蔓は、フジが左巻きヤマフジが右巻きである。フジは、本州から九州まで分布し、ヤマフジは、本州の近畿以西から九州まで分布する。そのため、中部から東北にかけての地域では、基本的にフジの一種しか見ることができない。(藤吉正明記)
【例句】
くたびれて宿借るころや藤の花
芭蕉「笈の小文」
水影やむささびわたる藤の棚
其角「皮籠摺」
蓑虫のさがりはじめつ藤の花
去来「北の山」
しなへよく畳へ置くや藤の花
太祇「太祇句選後篇」
月に遠くおぼゆる藤の色香かな
蕪村「連句会草稿」
藤の花雲の梯(かけはし)かかるなり
蕪村「落日庵句集」
しら藤や奈良は久しき宮造り
召波「春泥発句集」
藤の花長うして雨ふらんとす
正岡子規「子規全集」
藤浪に雨かぜの夜の匂ひけり
前田普羅「新普羅句集」
白藤や揺りやみしかばうすみどり
芝不器男「芝不器男句集」
こころにもゆふべのありぬ藤の花
森澄雄「天日」
寝坊して雲より垂るる藤の花
長谷川櫂「古志」