山吹(やまぶき) 晩春
【子季語】
面影草、かがみ草、八重山吹、濃山吹、葉山吹、白山吹
【解説】
山吹は晩春、若葉とともに黄金色の花を多数咲かせる。細くしなやかな枝に咲いて散りやすく、その風情は万葉集以来、詩歌に詠まれてきた。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
蛙鳴く甘南備川に影見えて今か咲くらむ山振の花 厚見王『万葉集』
山振の立ちよそひたる山清水酌みに行かめど道の知らなく 高市皇子尊『万葉集』
吉野川岸の山吹ふく風に底の影さへ移ろひにけり 紀貫之『古今集』
蛙なく井手の山吹散りにけり花の盛りにあはましものを 読人知らず『古今集』
人も来ず春行く庭の水の上にこぼれてたまる山吹の花 正岡子規
【科学的見解】
山吹(ヤマブキ)は、バラ科ヤマブキ属の落葉低木で、日本各地の山地の湿ったところに自生する。四月から五月にかけて枝先に、五弁の鮮黄色の花をひとつつける。卵形の葉は互生して、長さは八センチくらい。丈は一メートルから二メートルくらいになる。ヤマブキの園芸品種として八重咲きのものが存在するが、雌しべが退化しているので実を結ばない。(藤吉正明記)
【例句】
ほろほろと山吹散るか滝の音
芭蕉「笈の小文」
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時
芭蕉「猿蓑」
山吹の露菜の花のかこち顔なるや
芭蕉「東日記」
山吹や笠に指べき枝の形り
芭蕉「蕉翁句集」
山吹や井手を流るる鉋屑
蕪村「天明三几董初懐紙」
山吹や葉に花に葉に花に葉に
太祗「俳諧新選」
折ばちる八重山吹の盛かな
召波「春泥句集・安永」
山吹や小鮒入れたる桶に散る
正岡子規「子規句集」
山吹の雨に灯ともす隣かな
内藤鳴雪「新俳句」
あるじよりかな女が見たし濃山吹
原石鼎「花影」
濃山吹俄かに天のくらき時
川端茅舎「定本川端茅舎句集」