桃の花(もものはな) 晩春
【子季語】
白桃、緋桃、源平桃、桃畑、桃林、桃園、桃見、桃の村、桃の宿
【関連季語】
桃
【解説】
桃は晩春、桜に少し遅れて淡紅色の花を咲かせる。日本の花の美の規範である桜に対し、
桃は鄙びた美しさがある。雛祭に飾られる花であったが、明治の改暦以降、雛祭は新暦の
三月三日に行われるようになったので、桃の花の時期は、雛祭のとずれるようになった。
日本で花といえば、古来、桜だが、中国では桃の花をさす。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
春の苑くれなゐにほふ桃の花した照る道に出で立つをとめ 大伴家持『万葉集』
【科学的見解】
桃(モモ)は、バラ科サクラ属の落葉低木。原産地は中国で、日本には弥生時代にわたったとされる。晩春、葉がでるより早く五弁の淡紅色の花を咲かせるが、種類によっては、白色や緋色のものもある。果実は球形で直径十センチくらい。八月ころに紅く熟す。花の鑑賞を目的としたものや食用目的のものなど、園芸品種が多数存在する。(藤吉正明記)
【例句】
煩へば餅をも喰はず桃の花
芭蕉「夜話ぐるひ」
船足も休む時あり浜の桃
芭蕉「船庫集」
桜より桃にしたしき小家かな
蕪村「蕪村句集」
喰うて寝て牛にならばや桃の花
蕪村「蕪村句集」
商人(あきんど)を吼る犬ありもゝの花
蕪村「蕪村句集」
家中衆にさむしろ振ふもゝの宿
蕪村「蕪村句集」
桃の木へ雀吐き出す鬼瓦
鬼貫「鬼貫句集」
鯛を切る鈍き刃ものや桃の宿
几董「井華集」
戸の開てあれど留守なり桃の宿
千代女「千代尼句集」
桃咲くやおくれ年始のとまり客
一茶「寛政句帳」
海女とても陸こそよけれ桃の花
高浜虚子「六百五十句」
遊びゐるうちに日が暮れ桃の花
長谷川櫂「蓬莱」