菫(すみれ)三春
【子季語】
菫草、花菫、紫花地丁、相撲取草、相撲花、一夜草、一葉草、ふたば草、壺すみれ、姫すみれ
【解説】
菫は春、濃い紫色の花をさかせる。その小ささをめでて、夏目漱石は「菫ほどな小さき人に生まれたし」と詠んだ。花の形が、大工道具の「墨入れ」に似ていることから「すみれ」の名がついたという。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
春の野にすみれ摘みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける 山部赤人『万葉集』
【科学的見解】
菫(スミレ)は、スミレ科スミレ属の多年草。日本の在来種であり、山野に広く自生する。菫は三月から五月のかけて濃い紫色の小さな花をさかせる。花は、ラッパのような形の花をやや下向きにつけ、距と呼ばれる蜜を蓄える部分を有する。五枚の花びらは大きさが同じでなく、下側の一枚(唇弁)が大きく他の四枚(上弁一対、側弁一対)は左右対称になる。(藤吉正明記)
【例句】
山路来て何やらゆかしすみれ草
芭蕉「のざらし紀行」
当帰よりあはれは塚のすみれ草
芭蕉「笈日記」
骨拾ふ人にしたしき菫かな
蕪村「蕪村句集」
居りたる舟を上ればすみれ哉
蕪村「蕪村句集」
巡礼のへたりと居るや菫艸
素丸「素丸発句集」
骨拾ふ人にしたしき菫かな
蕪村「蕪村句集」
地車におつぴしがれし菫哉
一茶「文化句帳」
菫ほどな小さき人に生まれたし
夏目漱石「漱石全集」
亀石へゆく道を問ふ菫かな
長谷川櫂「果実」