春の鹿(はるのしか)三春
【解説】
雄は角が落ち、雌は出産してその後は毛が抜け落ちる。雄も雌もなんとなくみすぼらしい感じになる。
【科学的見解】
シカ(ニホンジカ)は、ウシ目(偶蹄目)シカ科の哺乳類で、形態的特徴により北海道に生息するエゾジカ、東北から近畿地方に生息するホンシュウジカ、中国・四国地方から九州までに生息するキュウシュウジカ、鹿児島県馬毛島に生息するマゲジカ、鹿児島県屋久島に生息するヤクシカ、沖縄県慶良間諸島に生息するケラマジカの六亜種に分類されている。
一般的に哺乳類は緯度の高い地域に存在する亜種ほど体は大きくなり、沖縄のケラマジカは雄の平均体重が約三十キログラムに対して北海道のエゾジカは約百四十キログラムと五倍近くに成長する。それらの亜種は、人里近くの低地から山地までの森林や草地が入り混じる環境を好んで生活している。積雪の多い地域は苦手としている。昼夜問わず行動し、植物の葉や新芽、樹皮、キノコなどを採食している。雄のみ枝分かれのある角を持ち、毎年春に角を落とす。角が落ちた後は、すぐに新しい角が現れ、秋までには硬化し、立派な角に生え変わる。体毛は夏毛と冬毛を有し、春は冬毛から夏毛に抜け替わる季節である。夏毛は明るい茶色に白点が入り混じる模様となる。(藤吉正明記)
【例句】
思ひわすれ思ひ出す日ぞ春の鹿
千代尼「寄合句帖」
うらうらと草はむ春の野鹿かな
白雄「白雄句集」
野の空をうけてありくや春の鹿
乙二「をのゝえ草稿」
春鹿の眉ある如く人を見し
原石鼎「花影」
春の野を持上(もた)げて伯耆大山を
森澄雄「鯉素」