リレーエッセイ032 初戎 長谷川 櫂
六日の菖蒲(あやめ)、十日の菊というとおり、その日をすぎてしまえば間の抜けたものになるのは菖蒲と菊ばかりではない。一月十日になって初戎(はつえびす、十日戎)の原稿を送るのもそのたぐいに属するかどうか。
大阪の初戎は東京でいえば十一月の酉の市にあたる商売繁盛のお祭。あちこちの戎神社では熊手ならぬ福笹を手にした人々が今年の福を願ってお参りする。もう二十年近く前、一度参拝したことがあるが、東京の酉の市とちがって、どことなく春めいた感じがするのは新年というだけでなく、大阪という町の気質もあずかっているにちがいない。
木下洋子さんは大阪の友人だが、その人の句集『初戎』がそろそろ店頭に並ぶ。序句を頼まれて、こんな句をつくった。
ばたばたと暴るる鯛を初戎 櫂
木下さんは大阪の人らしくおっとりしたところのある人で、「初戎という題なら十日までに」といったのに悠々と遅れて、この分では十日どころか二十日もすぎてしまうらしい。まあ、来年の初戎に三百五十日も先駆けてと思えば結構。この寒さ、鯛も腐りはしないはず。(きごさい代表、写真=福笹)
