藤吉正明講師「花はなぜ開くのか-花芽の誕生と太陽の光-」講座報告
藤吉正明氏は、東海大学教養学部准教授で専門は植物生態学・植物民族学である。俳句にも関心をお持ちで、「きごさい歳時記」では、植物の季語137項目について科学的見解をつけてくださっている。
今回の講演では、私たちの身近にあって癒しを与えてくれると同時に、季節を感じる手段にもなっている草木の花について、進化や開花と光の関係について自然科学的な視点からの考察、さらには身近な植物であるキクやアサガオ等を事例に、人間生活への光管理技術の活用について紹介していただいた。
○花の役割
植物の開花は、種子形成をして子孫・命をつなぐためである。受粉をする手段により風媒花と虫媒花の2つのタイプに分類できる。
風媒花は花粉の媒介を風に頼っているため、多くの花粉を作る必要があり、スギやオオブタクサのように人間にアレルギー症状を引き起こすものもある。クロマツ、ソテツ、トウモロコシなどがある。
虫媒花は花粉の媒介を昆虫などに頼るもので、虫を引寄せるために鮮やかな色彩の花弁や香りや花蜜を持っており、私達もそれを愛でることによって癒されると同時に季節を感じている。サクラ、タンポポなど多くの植物がこの分類にあたる。
○植物の進化と多様性
約4億年前に、水中から藻類が陸に進出し陸上植物が誕生した。胞子形成で繁殖し花を形成しないコケ植物、茎を備えたシダ植物(これらを隠花植物という)を経て、花を形成する顕花植物である裸子植物(風媒花)が現れ、1億5千万年前ごろから、色、香、蜜を持つ虫媒花の被子植物が登場し爆発的に種数を増やした。従って恐竜の時代には植物はあったものの、緑一色の世界であった。
現在は約26万種の植物のうち、9割が被子植物であり、私達は様々な色や形状の花を楽しむことができる。
○花芽形成と環境の関わり
受粉や結実率を高めるために、植物の多くは開花時期(花芽形成)を揃えている。開花のスイッチを入れる引き金としては、自然界における無機的要因(温度、水、光など)に頼るものが多い。
光環境を花芽形成の引き金にしている植物は、長日植物(春から初夏の日の長い時期に開花する植物、アブラナ、アヤメなど)と短日植物(夏から秋の日の短い時期に開花する植物、アサガオ、キクなど)がある。その他に、開花の引き金に光を利用しない中性植物(ナス、ワタ、トマトなど)がある。また長日植物の中には、単に日の長さだけではなく、冬の寒さを越さないと開花しないものもある。
○栽培技術による開花時期の調整
人間生活の必要性から栽培技術によって開花期を調整しているものがある。
短日性のアサガオは7月末から8月初めが開花期であるが、7月初めの朝顔市に開花させるために、暗幕をかけるなどして日照時間を調整している。
ポインセチアは葉の色素形成時期は2月であるが、短日処理をしてクリスマスにあわせている。
菊は短日性だが、弔事などに季節を問わず利用されるので、電照栽培することで出荷時期を長くしている。
鬼灯は、ほおずき市に実を熟させるために、短日処理をして開花させたあとエチレン系のホルモンを与えて実を色づけている。
○室内環境での栽培技術
屋外光(白色光)は400~800ナノメーターの波長がある。波長の短いのが紫色で長いのが赤色である。光合成に適した波長は450ナノメーター(青色)と750ナノメーター(赤色)であることが分かっている。野菜の室内栽培をする野菜工場では、青色と赤色のLEDライトを照らして栽培している。
○結び
このように科学技術の農業、園芸への利用により、私達の生活はより充実したものになってきているが、一方で失われつつある季節感を維持するために、自然豊かなところを訪れ自然本来の姿を確認することが大切である。因みに藤吉正明氏は、学生たちと草木染めで糸作りをするなど、自然環境に親しんでいるとのことであった。
○追補
講義のあと質問を受けて、貴重な話が幾つもあったが、そのうち興味深いものを挙げて、この報告を終りたい。
帰り花の現象は、光の長さによって開花する植物は、年に二回同じ日の長さがあるので、もともと二回咲く性質を内包しており、通常はそれが抑えられているが、たまたま制御が解かれて開花するのではないか。
梅、菊など外来種でありながら日本で愛されている草木は多い。一方で外来品種を駆除、制限する動きがあるが、これは明治以降日本に伝来した繁殖力が非常に盛んで在来種に悪影響を与えているものに対してである。特に飼料として日本に入ってきた種子が家畜の糞に残り、それが堆肥の中に混ざって定着する。河川に排出される水に混じり、河川敷に繁殖して蘆や萱に悪影響を与えている。(きごさい会員 神谷宣行記)
