きごさい+「薔薇の歴史と楽しみ方」報告
7月30日(日)、第11回「きごさい+」が神奈川近代文学館で開催された。講師は、育種家で横浜イングリッシュガーデン・スーパーバイザーの河合伸志さん。(西川遊歩記)
◆植物大好き少年が、薔薇づくり、庭造りのプロになるまで
河合伸志さんは、小さい時から植物が大好きな少年であった。花を観察したり、育てたりが楽しく、将来は画家になって植物や花を描こうと考えていた時期もある。庭には、クイーンエリザベスという薔薇があった。中学生になってから、切り花で見たブルームーンという薄紫の薔薇に出会い、その魅力に目覚める。高校生の時には、ブラックティーという茶色の薔薇に心奪われる。その頃、交配について強い興味を持ち、18歳にして新種(ウインドソング)を作出している(発表は後年)。大学院卒業後、大手育種会社の研究員として、いくつかの新種を世に送り出し、仕事の上で多くの経験重ねた後、独立。
現在拠点としている横浜イングリッシュガーデンでは、植物に合った環境作りを心掛けている。日本の造園業者は、樹木には詳しいが、草花の知識がほとんどない。造園と園芸の両方の視点があってこそ、素晴らしいガーデンを完成することができる。横浜イングリッシュガーデンでも、例えば5月の薔薇の季節では、薔薇を主役に他の草花が咲き乱れる華やかさを目指している。傍役の花も下草も重要なのだ。
◆薔薇の流行と歴史
花を横から見ると、カップのような形になる咲き方をカップ咲きといい、現在主流の花形。ロゼッタ咲きは、小さな花びらが放射状に伸びる花形。薔薇には多彩な咲き方があり、時代によって流行がある。高島屋の包装紙は薔薇がデザインされているが、以前は剣型花弁のオーソドックスな薔薇だったが、現在は、花弁がぎっしりつまった薔薇の花の輪が描かれている。
庭園に関しても、昔は薔薇だけを配置したが、現在は薔薇以外の草花を合わせたガーデンに変わりつつある。
鑑賞用の薔薇は、ローマ時代にすでに存在していた。薬などの実用ではなく、鑑賞用植物として2000年も栽培されてきたというのは異例の長さだ。クレオパトラの薔薇好きは有名だが、ローマ帝国歴代の皇帝は、薔薇と薔薇の香水を愛した。中世に入ると、キリスト教の、赤い薔薇はキリストの流した血、白い薔薇はマリアの純潔の象徴をとして、限られたところでの栽培となり、一般の薔薇の栽培は禁じられた。ルネサンス期には、メディチ家が薔薇園を復活。ボッティチェリの「ビーナスの誕生」には薔薇が描かれている。
薔薇の発展に大きく貢献したのは、ナポレオンの妻ジョセフィーヌだ。世界から数多くの薔薇を収集、園芸家、アンドレ・デュポンを援助して人工交配による新品種をつくり、有名な薔薇の画家のルドウ―テに描かせ、記録させた。こうしてフランスが世界でいち早く薔薇の大国となった。
◆中国の薔薇、そして、モダンローズVSオールドローズ
中国の薔薇は古くは唐の時代から、四季咲きの薔薇を特徴として知られていた。1800年代、プラントハンター全盛時代に、中国、日本を含む東洋の薔薇が、ヨーロッパにもたらされる。特に4種類の中国の四季咲きは「四つの種馬」として評判となる。同時に、この頃、メンデルの法則が発見され、人工交配技術が発達。1867年、完全四季咲きの花「ラフランス」(西洋薔薇と東洋薔薇のハイブリッド)が完成、モダンローズとして、以後、改良を重ね、今日に至るまで類稀なる植物に変化していく。
薔薇は大きく分けて以下の3種類に分類される。
①野生種=ハマナス(ジャパニーズ・ローズ)をはじめ、雲南省やヒマラヤの薔薇の原種。
②オールドローズ=ヨーロッパ、1867年以前の品種。一回咲き、香り強い、優雅な花。
③モダンローズ=四季咲き、大輪、色とりどり、バリエーション豊富。
日本にも明治時代初期に一気に薔薇が入ってくる。平成元年、薔薇が横浜の市の花と認定される。
歴史の話の後も、薔薇の色、花型、花弁、命名権、花形、香り…河合さんの豊かな経験と映像を交えての説明が続いた。句会後の長谷川代表とのトークの中では、会場の質問にも丁寧に答えられ、大きな拍手を浴びた。ちなみに、横浜イングリッシュガーデン以外の、日本の薔薇のおすすめ鑑賞地は新潟県長岡市の「越後丘陵公園」だそうだ。海外ではニュージーランドの薔薇が群をぬいてすばらしいとのこと。
薔薇の栽培に関する質問に具体的な回答を示した上で、「薔薇は、上から目線の花で日々の世話を要求してくる誇り高い花。日本の多湿多雨の気候が栽培を難しくしているが、薔薇と会話するように世話をすれば花は応えてくれる。」と、河合さんの薔薇と植物への愛が印象的な充実のレクチャーであった。
◆句会
☆河合伸志選
【特選】
酔うてみよ触るるばかりに薔薇の息 趙栄順
花終へてやすらぐ薔薇となりにけり 山本孝予
有り金をはたきて薔薇の命名権 石川桃瑪
【入選】
薔薇の字や恋のごとくに難しき 上田雅子
野いばらの棘におののき刈り逃す 藤野侃
薔薇の床クレオパトラの夜妖し 鈴木伊豆山
上品の香りや朝の薔薇一輪 大平佳余子
うどん粉に疲れし薔薇や秋を待つ 岩﨑ひとみ
草花を従へて立つ秋の薔薇 西村麒麟
凱旋のテルマエロマエ薔薇万本 鈴木伊豆山
薔薇よりも息を殺して薔薇を嗅ぐ 三玉一郎
☆長谷川櫂選
【特選】
花終へてやすらぐ薔薇となりにけり 山本孝予
あかあかと薔薇の孤独や五千年 西村麒麟
イングリッシュローズの庭や草いきれ 石川桃瑪
いく万の薔薇育みし日焼かな 三玉一郎
大胆に薔薇は剪るべし剪りにけり 金澤道子
薔薇よりも息を殺して薔薇を嗅ぐ 三玉一郎
【入選】
薔薇の水替へていつもの机かな 金澤道子
上品の香りや朝の薔薇一輪 大平佳余子
けふの句を花束にせん薔薇句会 上田雅子
毬となり剣となりて薔薇咲きぬ 趙栄順
わが想ひ青空に燃ゆ夏カンナ 河合伸志
