8月 きごさい+報告 「異国への憧れ、南蛮菓子あれこれ」
8月11日、第30回きごさい+がズームで開催されました。講師は、きごさい+ではおなじみの株式会社虎屋・虎屋文庫主席研究員の中山圭子さん。中山さんの講座は今年で7年目、春夏秋冬の和菓子に続いて、一昨年は羊羹、昨年は落雁のお話。そして今回のテーマは「異国への憧れ、南蛮菓子あれこれ」でした。
講座 レポート
「ぜひ気になる南蛮菓子をご用意いただき、味わいながらご参加ください」という中山さんの事前の呼び掛けに、私も久しぶりに金平糖を買ってみた。中山さんから「私は平戸のカスドースと京都のボーロを用意して気分を高めています」と珍しいお菓子が画面で紹介された。
日本古来の菓子といえるものは木の実や果物だったが、飛鳥時代以降に入ってきた外来の菓子や食材に日本らしい創意工夫を重ね、様々な菓子が生み出された。影響をあたえた外来食物の一番目は遣唐使などがもたらした唐菓子、次が鎌倉~室町時代に中国に留学した禅宗の僧侶が伝えた点心(羊羹、饅頭など)、そして三番目が本日のテーマの南蛮菓子だという。 南蛮菓子とは、室町時代末期より江戸時代にかけて、ポルトガル人やスペイン人などの宣教師や貿易商人がもたらしたもので、代表的なものに、カステラ、金平糖、ボーロ、鶏卵素麺がある。和菓子の歴史のおさらいを聞きながら、江戸時代、花とひらいた菓子文化に南蛮菓子も入るのだろうか、その影響は、とますます興味がわいた。
レジュメにそって美しい画像と貴重な史料が次々と画面に映し出され、中山さんの明快で楽しいお話が始まった。代表的な南蛮菓子のルーツなど、一部を紹介すると…
カステラ Bolo de Castela (カスティリアつまり、現在のスペインの菓子の意)
ポルトガルのパン・デ・ロー、スペインのビスコチョが原形
金平糖 Confeito (砂糖菓子の意)
チャイコフスキー作曲 『くるみ割り人形』の「金平糖の精の踊り」はドラジェのこと
有平糖 Alfenim (テルセイラ島に伝承される飴菓子) Alféloa (砂糖菓子、実体不明)説もあり
鶏卵素麺 Fios de Ovos (卵の糸の意)
ボーロ Bolo(ケーキを主とした菓子の総称)
かせいた Caixa de Marmelada (マルメラーダの箱の意)
マルメラーダ…マルメロを砂糖煮にして固めた羊羹のような菓子
カルメラ Caramelo (焼き砂糖、飴類の意) 日本では生菓子の飾り附けなどに使用
ビスカウト Biscoito(二度焼きしたパンの意あり)
ヒリヨウス Filhós (クリスマスなどに食べる揚げ菓子)
日本では飛龍頭(ひりょうず、ひろうす)に変化
けさちいな Queijada (チーズケーキ) 日本ではかぼちゃ餡入りの菓子に
カスドース Sopa dourada (パン・デ・ローを切って、卵黄クリームをかけたもの)が原形か?
カステラを卵黄にくぐらせ、煮たてた糖蜜で揚げ、グラニュー糖をまぶす
参考 中田友一「おーい、コンペートー」あかね書房 1990年
荒尾美代「南蛮料理のふしぎ探検」日本テレビ 1992年
南蛮菓子展 虎屋文庫展示小冊子 1993年
明坂英二「かすてら加寿底良」講談社 2007年
「歴史上の人物と和菓子」虎屋HP http://www.toraya-group.co.jp/gallery/dat_index.html
〇講座を聞いて
織田信長と南蛮菓子の出てくる場面は大河ドラマなどでよく見る。エキゾチックな形、卵や砂糖を使った甘い菓子は、当時の人をどんなに魅了したことだろうか。現在も全国的に親しまれている「カステラ」や「金平糖」、限られた地方や店で伝統を継承している「かせいた」や「カスドース」、そして実体がよくわかっていない「はるていす」や「けさちいな」などなど。珍しい画像とお話で、遠く南蛮図屏風の世界に旅をした気分になった。
またポルトガルの菓子との比較画像は興味深かった。金平糖、有平糖のルーツであるポルトガルの砂糖菓子、飴菓子は日本のそれよりもずっと素朴だ。星を思わせる角や淡い色合いがかわいい金平糖、デザインも多様で色鮮やかな有平糖など、南蛮菓子も日本独自の進化をとげて今に至ることがよくわかった。沸騰した糖蜜に卵黄を糸状に垂らした「卵の糸」の意の菓子は現在もポルトガルや東南アジアの国々で人気だそうだが、それが日本では「鶏卵素麺」と呼ばれ、きれいに束ねて上等の茶菓に仕立てたものもあるのは、日本独自のもので、日本人の美意識と工夫に感心した。
南蛮菓子が和菓子であることに間違いないが、それでもカステラや金平糖には異国への憧れ、エキゾチックな魅力が今も息づいている。 (葛西美津子記)
菓子関係展示情報
〇和菓子でめぐる春夏秋冬展 虎屋赤坂ギャラリー 9月10日(日)まで
〇虎屋文庫50周年記念!「和菓子の〈はじめて〉物語」
虎屋赤坂ギャラリー10月1日(日)~11月23日(木)
〇はじめて知る銭湯 東京ミッドタウン店ギャラリー(六本木)9月8日(金)~2024年1月24日(水)
〇大名と菓子‐百菓繚乱‐ 彦根城博物館 10月7日(土)~11月6日(月)
虎屋文庫について
和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うことを目的に、昭和48年(1973)に創設された「菓子資料室」。室町時代後期創業の虎屋に伝わる古文書や古器物を収蔵、和菓子に関する資料収集、調査研究を行っている。学術研究誌『和菓子』を年1回発行(最新号は第30号 特集―文学と菓子2)。
非公開だが、お客様からのご質問にはできるだけお応えしている。
株式会社 虎屋 虎屋文庫 〒107-0052 東京都港区赤坂4-9-17 赤坂第一ビル2階
E-mail bunko@toraya-group.co.jp TEL 03-3408-2402 FAX 03-3408-4561
句会報告 選者=中山圭子、長谷川櫂
◆ 中山圭子 選
【特選】
掌に私の銀河金平糖 稲垣雄二
カルメラや並ぶ夜店の灯し色 越智淳子
カステイラ秋の昼寝の海わたる 飛岡光枝
銀河からつぎつぎこぼれ金平糖 齋藤嘉子
薄紙を透けくる桃のかをりかな 金澤道子
【入選】
沈めあり流れに透けて水饅頭 西川遊歩
石一つこれが英霊秋の風 齋藤嘉子
涼しさや氷の角のこんぺいと 長谷川櫂
恐山風無く廻る風車 山口伸一
幽霊も水飴買うて迎鐘 きだりえこ
月祀る昭和の社宅カルメ焼き 西川遊歩
一片の菓子さへ沁みる敗戦忌 澤田美那子
金平糖空へ散らして星の恋 きだりえこ
◆ 長谷川櫂 選
【特選】
掌に私の銀河金平糖 稲垣雄二
カステラの底の粗目や秋に入る 金澤道子
甘き菓子なき時代あり敗戦忌 谷口正人
夕顔の花とひらくや有平糖 飛岡光枝
掌に夏こぼるるや金平糖 飛岡光枝
【入選】
八月や軍用菓子を納めし記 西川遊歩
金平糖ぽつぽつ齧り麦茶かな 越智淳子
紐とけばなんと涼しき琥珀糖 ももたなおよ
均等に切れぬカステラ秋暑し 村井好子
新涼の紙に七色こんぺいと 葛西美津子
カステラやグラス冷たきアイスティー 越智淳子
菓子のせて南蛮船や秋の風 斉藤真知子
カステラのざらめぱらりと今朝の秋 村井好子
一片の菓子さへ沁みる敗戦忌 澤田美那子
角出して金平糖の夜の秋 澤田美那子