猫の恋(ねこのこい、ねこのこひ) 初春
【子季語】
猫の妻、恋猫、猫さかる、浮かれ猫、猫の夫、猫の妻、猫の契、春の猫、戯れ猫、通ふ猫
【関連季語】
猫の子
【解説】
恋に憂き身をやつす猫のこと。春の夜となく昼となく、ときには毛を逆立て、ときには奇声を発して、恋の狂態を演じる。雄猫は雌を求めて、二月ごろからそわそわし始め、雌をめぐってときに雄同士が喧嘩したりする。
【科学的見解】
ネコは、ネコ目(食肉目)ネコ科の哺乳類で、愛玩動物として世界中で飼育もしくは一部逃げ出したものが野生化している。その飼育されているもしくは野生化しているネコには、一般的な呼び名としてイエネコやノネコ(ノラネコ)という言葉が使用されている。飼育されているイエネコはアフリカに分布するリビアネコが祖先とされている。
イエネコが野生化したノネコは、一定の餌場と休憩場所を行き来し、主に都市部や人里周辺で生活している。活動は昼間より夜間が活発になるとのことである。繁殖期になると雄は広範囲を動き回り、「アーオー、アーオー」という鳴き声を出す。(藤吉正明記)
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【例句】
猫の恋やむとき閨の朧月
芭蕉「をのが光」
麦めしにやつるゝ恋か猫の妻
芭蕉「猿蓑」
猫の妻竃の崩れより通ひけり
芭蕉「江戸広小路」
まとふどな犬ふみつけて猫の恋
芭蕉「茶のさうし」
羽二重の膝に飽きてや猫の恋
支考「東華集」
猫の恋初手から鳴きて哀れなり
野坡「炭俵」
声たてぬ時が別れぞ猫の恋
千代女「千代尼句集」
おそろしや石垣崩す猫の恋
正岡子規「子規句集」
恋猫の眼ばかりに痩せにけり
夏目漱石「漱石全集」
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく
加藤楸邨「まぼろしの鹿」
はるかなる地上を駆けぬ猫の恋
石田波郷「酒中花」
恋猫やからくれなゐの紐をひき
松本たかし「松本たかし句集」
山国の暗すさまじや猫の恋
原石鼎「花影」
猫の恋老松町も更けにけり
日野草城「青芝」
恋猫の声のまじれる夜風かな
長谷川櫂「蓬莱」