落し角(おとしづの)晩春
【子季語】
鹿の角落つ、忘れ角
【解説】
春から初夏にかけて、生え変わるために鹿は角を落とす。新しい角は袋角と呼ばれ、柔らかい皮膚で覆われている。鹿の角は生え変わるたびにその枝が多くなる。
【科学的見解】
シカ(ニホンジカ)は、ウシ目(偶蹄目)シカ科の哺乳類で、日本に生息する種は北海道のエゾジカから沖縄のケラマジカまで六亜種に分類されている。
これらのシカは、雄のみ角を持ち、毎年春に角を落とした後、新しい角と入れ替わる。シカの角は、二歳から生えはじめ、二歳の角は枝分かれをせず一本となる。三歳の角は、基部から枝分かれした二本の形になり、その後は四歳で枝分かれ三本、最終的には五歳以上で枝分かれ四本となる。そのため、角の形により雄の年齢が推定できる。基本的にその後枝分かれはしないが、稀に五本の枝分かれした個体が表れる場合がある。(藤吉正明記)
【例句】
角落とす鹿の狂ひや恋のごとし
樗良「題林集」
角落す鹿や嵯峨野の草の雨
紫暁「そねのまつ」
角落ちてはづかしげなり山の鹿
一茶「八番日記」
角落ちてあちら向いたる男鹿かな
正岡子規「寒山落木」
角落ちし気の衰へや鹿の顔
石井露月「露月句集」
さを鹿はからんと角を落しけん
長谷川櫂「虚空」