【解説】
正月三が日の鼠の異称。家鼠は人の生活の近くに居り、食害などで嫌われる一方、大黒様の使いとされ、親しまれる動物である。正月には、「鼠の年取り」として米や餅や正月料理を少量供える地方もある。
【来歴】
『山の井』(正保5年、1648年)に所出
【例句】
餅花やかざしにさせる嫁が君
芭蕉「境絹」
明くる夜もほのかに嬉しよめが君
其角「七瀬川」
三日月を出て見るあとは嫁が君
乙二「をのゝえ草稿」
ぬば玉の閨かいまみぬ嫁が君
芝不器男「芝不器男句集」
【子季語】
初戎、宵戎、戎祭、残り戎、福笹、戎笹、福飴、吉兆、小判売
【関連季語】
二十日戎
【解説】
新年初の戎祭。一月十日に行われる。戎様に家内安全、商売繁盛を祈願する。兵庫県の西宮神社、大阪の今宮戎神社などが有名。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。【文学での言及】
【実証的見解】
恵比寿神は、もともと漁業の神。やがて福の神、商売繁盛の神として親しまれるようになった。一月九日は宵戎、十日は本戎、十一日は残り福。小ぶりの笹「福笹」に小判、米俵、鯛等の縁起物「吉兆」を結びつける。今宮戎神社境内では、「商売繁盛で笹もってこい」の景気よい掛け声の中、福笹をもとめる人々で賑わう。
【例句】
店の燈に髪焦しけり宵戎
高田蝶衣「青垣山」
十日戎浪花の春の埃かな
岡本松濱「岡本松濱句文集」
堀川の水の暗さや宵祭
青木月斗「月斗翁句抄」
大阪の遊びはじめや宵夷
長谷川櫂「蓬莱」

【子季語】
夢祝、夢流し、初枕、獏枕
【解説】
元日の夜または二日の朝にみる夢。二日の夜に見る夢を初夢という地方もある。縁起のよい初夢として「一富士二鷹三茄子」があるが、吉夢を願って宝船の絵を枕の下に置いて寝たり、悪い夢は「獏に食わせろ」ということから、獏の絵を枕の下にして寝たりする。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
年くれぬ春は来べしとは思ひ寝にまさしく見えてかなふ初夢 西行『山家集』
【例句】
はつ夢や正しく去年の放し亀
言水「柏崎」
初夢や額にあつる扇子より
其角「五元集拾遺」
初夢やさめても花ははなごころ
千代女「書簡」
はつ夢や鷹ふところにぬくめ鳥
蓼太「蓼太句集三編」
口々に指折る人や夢はじめ
麦水「葛箒」
初夢に古郷を見て涙かな
一茶「寛政句帖」
初夢や金も拾はず死にもせず
夏目漱石「漱石全集」
初夢もなく穿く足袋の裏白し
渡辺水巴「水巴句集」
初夢に見し踊子をつつしめり
森澄雄「浮鷗」
夢はじめ現(うつつ)はじめの鷹一つ
森澄雄「浮鷗」
【子季語】
浜弓、破魔矢、浜矢
【解説】
初詣の際、寺社で分かたれる厄除けの弓をいう。矢もあって、そちらは破魔矢。セットでもとめる人もいる。
【来歴】
『俳諧初学抄』(寛永18年、1641年)に所出。
【実証的見解】
宮中で正月に行われていた弓の儀式「射礼」に由来するといわれる。元々、縄で作った輪を射る子供の遊びがあり、輪を「はま」、弓を「はま弓」、矢を「はま矢」と言った。後、「はま」が「破魔」に通じるとして、男児の初正月の祝儀となった。弓は厄をを祓うもの、神社では年頭の参詣者に守りとして分つ。
【例句】
はま弓や当時紅裏四天王
其角「五元集拾遺」
破魔弓やそもそも須磨の物語
完来「題葉集」
破魔弓と斧と並ぶや山の家
東明「発句題叢」
破魔弓や大火焚く家の遠長押
午心「発句類聚」
破魔弓を掛けて時めく主人かな
村上鬼城「鬼城句集」
およそ天下に適ふものなき破魔矢かな
長谷川櫂「初雁」
【子季語】
手鞠、手毬つく、手毬唄、手毬子
【解説】
正月遊びの一つ。色糸で美しく仕上げられた手毬を手に弾ませて遊ぶ。その時にうたうのが手毬唄。今では主に女の子の遊びと思われているが、古くは、正月二日の男子の行事であった。
【実証的見解】
『吾妻鏡』(鎌倉時代)に「正月二日、若君御方において、手鞠の御会あり」とある。
【例句】
汁鍋に手鞠はね込む笑ひかな
成美「発句題叢」
さゝがにの絲かけそふる手まり哉
成安「綾錦」
鴛鴦の衾の裾に手鞠哉
松瀬青々「妻木」
焼跡に遺る三和土や手毬つく
中村草田男「来し方行方」
降りだして雪あたたかき手毬唄
加藤楸邨「怒濤」
弾みては毬てのひらを押し上ぐる
長谷川櫂「天球」
【子季語】
胡鬼板、はご
【関連季語】
追羽子
【解説】
正月の遊びの一つ。ムクロジという黒い木の実に鳥の羽根をつけた羽子を板で突く。複数で羽を突き合うのが追羽子または遣羽子。ひとりで数え歌を口ずさみながら突くのが揚羽子と呼ばれる。古くは胡鬼板と呼んだ。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【実証的見解】
古くはこぎ板と言い、蚊よけのまじないであった。宮中のことを記録した『看聞御記』(室町時代)に公卿や女官が羽根つき(こきの子勝負)をしたとの記録がある。江戸時代には邪気よけとして女子に羽子板を贈るようになり、「歌舞伎」の役者絵などをあしらうようになった。
【例句】
つくばねや擬宝珠をとぶ牛若子
西鶴「東童」
羽子板や唯にめでたきうらおもて
嵐雪「雀の森」
やり羽子は風やはらかに下りけり
支考「犬註解」
羽子板の一筆書きや内裏髪
召波「春泥発句集」
羽子板の判官静色もやう
松本たかし「松本たかし句集」
門前に羽子板の金銀と湧き
高田正子「玩具」
【子季語】
骨牌、歌がるた、いろは歌留多、花歌留多、歌留多会
【解説】
正月遊びの一つ。読み札に合わせて座敷に並べられた札を取り合い、多く取ったものが勝ちになる。小倉百人一首やいろは歌留多などがある。
【来歴】
『遠碧軒記』(延宝3年、16753年)に所出。
【実証的見解】
歌留多の語源はポルトガル語であるが、その起源は、平安時代の貝合せであり、それが西洋のトランプのようなカード遊びと融合したと考えられる。歌留多でもっとも一般的な小倉百人一首は藤原定家が選んだ和歌百首を歌留多の札にしたためたもの。上の句五七五が読み札に書かれ、下の句七七が取り札に書かれている。読み手が上の句を読むやいなや、取り手は取り札をはねて、その早さを競い合う。いろは歌留多は「犬も歩けば棒にあたる」というような諺が読み札に書かれ、取り札には、読み札にあった絵が描かれる。
【例句】
かるた切る心はずみてとびし札
高橋淡路女「梶の葉」
胼の手も交りて歌留多賑はへり
杉田久女「杉田久女句集」
招かれて隣に更けし歌留多かな
夏目漱石「漱石俳句集」
読む歌留多月にあがりぬ路地の奥
原石鼎「原石鼎句集」
歌留多読む声のありけり谷戸の月
松本たかし「鷹」
二つ三つ歌も覚えて歌留多かな
村上鬼城「鬼城句集」
かるた切るうしろ菊の香しんと澄み
飯田龍太「涼夜」
【関連季語】
年賀状
【解説】
年が改まってからもらう最初の便り。年賀状も初便りだが、初便りというと、年賀状のような儀礼的なものではなく、用件あっての便りという意味合いが強い。
【来歴】
『季寄新題集』(嘉永元年、1848年)に所出。
【例句】
蓬莱に聞かばや伊勢の初便り
芭蕉「炭俵」
かの山の白瀬氷ると初便
長谷川櫂「果実」
【子季語】
初風呂、若風呂、若湯、湯殿初、初湯殿
【解説】
年が明けてはじめて風呂に入ること。正月一日は入らず、二日の昼間に入った。『江戸府内絵本風俗往来』(明治三十八年)によれば、「湯屋は七種まで、客に福茶を振る舞い、客は湯屋の主人や奉公人に年玉の銭を与えた」とある。
【来歴】
『増山の井』(寛文7年、1667年)に所出
【例句】
脱ぎかへて去年を今年や初湯殿
百中「新類題発句集」
湯始の注連とらまへて立つ子かな
一茶「希杖本発句集」