リレーエッセイ003 七種 坂内文應
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」七つを、唱えてみると、一つ二つが迷子になってしまい、数えなおしてみる。まだ、春の七草のほうが身ほとりに近いものが多いせいか、食べるということがあるせいか、秋の七草よりも口に載せやすい。
「七草籠」という柄の長い籠に寄せ植えにしたものなど、花屋さんの店先で見つけ、ついつい購い、食卓でしげしげと眺める時などに、こどものころ鶏を飼っていたことが思い出されてくるのである。
寺の裏木戸を開けると柿の木が幾本もあり、その下を鶏小屋まで細い道が続き、卵をとってくるのは、こどものわたしの仕事であった。戦後の物流の悪い時代、鶏は、どの家でも飼われていたように思う。当時は山や畑の仕事をするおじいさんがおり、鶏の餌つくりも手伝ったものだ。なによりも砕かれた白くきらきらとした貝殻が不思議だった、それに、米ぬかや、緑の葉を刻んだものを混ぜ合わせるのだが、こどもにできる手伝いといえば、なずな、ごぎょう、はこべらなどを採ってくるくらいのものであった。摘み草の風流など感じるすべもなかったが、いま、一碗の粥の中の若草の色と香りをいただくとき、そのような事どもが湯気のなかから、ほの浮かんでくるのである。(季語歳副理事長、写真=七草籠)
