鵙(もず)三秋
【子季語】
百舌鳥、伯労鳥、鵙日和、鵙の晴、鵙猛る、鵙の声、鵙の高音
【解説】
鵙は秋、木のてっぺんなどでキーイッ、キーイッと鋭い声で鳴く。小鳥ながら肉食。その声が澄んだ秋の大気と通ずるので「鵙日和」「鵙の晴」などと用いられる。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
秋の野の尾花が末に鳴く百舌鳥の声聞くらむか片侍つ吾妹 作者不詳『万葉集』
春されば百舌鳥草潜き見えずとも吾は見遣らむ君が辺りをば 作者不詳『万葉集』
頼めこし野辺の道芝夏深しいづくなるらむ鵙の草ぐき 藤原俊成『千載集』
【実証的見解】
鵙はスズメ目モズ科の鳥の総称。夏鳥のアカモズ、チゴモズ、冬鳥のオオモズ、オオカラモズなど日本各地に広く繁殖分布し、寒いところで繁殖するものは暖かい平地に移って越冬する。翼長十センチくらい。羽色は全体に地味で、頭は栗色、背は灰色、翼は黒褐色で中央に白斑が一つある。食性は肉食で、昆虫類、節足動物、甲殻類などをを食べる。樹の上や高所から獲物に襲いかかり、樹の上に戻って獲物を食べる。モズの高鳴きとしてよく知られている鳴き声は、秋から冬にかけてそこで生活するなわ張りを主張するためのものである。「鵙の贄」と呼ばれる習性は、鵙が捕らえた獲物を木の枝や有刺鉄線などに突き刺し行為をいう。繁殖は木の枝に皿状の巣を作り、二月から八月にかけて四、五個の卵を産む。
【例句】
百舌鳥なくや入日さし込む女松原
凡兆「猿蓑」
鵙啼て一霜をまつ晩田哉
浪化「柿表紙」
草茎を失ふ百舌鳥の高音かな
蕪村「新五子稿」
漆掻くあたまのうへや鵙のこゑ
白雄「白雄句集」
鵙の来て一荒れ見ゆる野山かな
蓼太「蓼太句集」
日のさして鵙の贄見る葉裏かな
闌更「半化坊発句集」
鵙の声かんにん袋破れたか
一茶「七番日記」
柞葉のちる中鵙の尾の動く
安藤橡面坊「深山柴」
鵙去て木葉飛ぶ事しきりかな
篠原温亭「温亭句集」
御空より発止と鵙や菊日和
川端茅舎「川端茅舎句集」
かなしめば鵙金色の日を負ひ来
加藤楸邨「寒雷」
鵙日和大外刈の決まりけり
長谷川櫂「果実」