【子季語】
春の駒、春の馬、若駒
【関連季語】
仔馬、厩出し
【解説】
春の野に放たれて、のびのびと遊ぶ馬。若駒はそのなかでも、一歳馬、二歳馬の若い馬をいう。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【文学での言及】
とりつなぐ人しなければ春駒の野辺の沢水かげもとどめず 大江匡房『堀川百首』
【例句】
若駒の親にすがれる大き眼よ
原石鼎「原石鼎全句集」
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虚子忌(きょしき) 晩春
【子季語】
椿寿忌、惜春忌
【解説】
俳人高浜虚子の忌日。昭和三十四年(一九五九年)四月八日没。八十五歳。
【実証的見解】
高浜虚子は明治七年(一八七四年)伊予松山に池内政忠の四男として生まれ、九歳のときに祖母の実家高浜家を継ぐ。河東碧梧桐とともに正岡子規に兄事し、子規より虚子の号を受ける。明治三十年(一八九七年)、柳原極堂が松山で創刊した俳誌『ほとゝぎす』に参加。翌年、これを引き継ぎ東京に移転する。子規の没後、一時俳句の創作を辞め小説の創作に没頭したが、その後俳壇に復帰し、「客観写生」、次いでその行きすぎを修正する「花鳥諷詠」の理念を掲げた。門下からは飯田蛇笏、水原秋桜子、山口誓子、中村草田男、川端茅舎、松本たかしなどが世に出ている。著書に『虚子句集』、『五百句』、『五百五十句』、『六百句』、『虚子俳話』、『句日記』など。
西行忌(さいぎょうき、さいぎやうき) 仲春
【子季語】
円位忌
【解説】
花を愛した歌人、西行法師の忌日。建久元年(一一九〇年)二月十六日。七十三歳。
【来歴】
『新季寄』(享和2年、1802年)に所出。
【実証的見解】
西行法師は、鳥羽上皇に仕えた北面の武士で俗名は佐藤義清(のりきよ)。二十三歳で出家する。「ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃」と詠んで、かねてから釈迦入滅の日に死ぬことを望んでいた。そのため、忌日は実際の忌日よりも一日早い旧暦の二月十五日とする。歌集に『山家集』がある。
【例句】
霞炷く富士を香炉や西行忌
素丸「素丸発句集」
西行忌我に出家の意(こころ)なし
松本たかし「松本たかし句集」
今日ばかり花も時雨よ西行忌
井上井月「井月句集」
奥山は雪ふかけれど西行忌
五十崎古郷「五十崎古郷句集」
きさらぎの雲は白しや西行忌
五十崎古郷「五十崎古郷句集」
木移りをしきりに鳩や西行忌
石田波郷「酒中花」
花あれば西行の日と思ふべし
角川源義「西行の日」
はるかより鷗の女(め)ごゑ西行忌
森澄雄「鯉素」
水のうへ暮れて明るし西行忌
長谷川櫂「古志」
復活祭(ふっかつさい、ふつくわつさい) 晩春
【子季語】
イースター、イースター・ホリデー、イースターリリー、復活節、染卵
【解説】
イエスが十字架上の死後三日目に復活したことを記念する祝日。イースターともいい、肉やパン、染卵を食べる習慣がある。移動祝祭日であり、春分後の最初の満月の後の第一日曜日がそれにあたる。
【例句】
若き心にともされし灯や復活祭
原月舟「月舟集」
仏生会(ぶっしょうえ、ぶつしやうゑ) 晩春
【子季語】
釈尊降誕会、仏誕会、誕生会、降誕会、浴仏会、灌仏、 灌仏会、花の塔
【関連季語】
花祭、甘茶、花御堂
【解説】
旧暦の四月八日、釈尊の誕生の日の法会。美しく飾った「花御堂」をしつらえて、その中に安置した誕生仏に杓子で甘茶をかけて祝う。新暦になってからは桜の時期と重なるので「花祭」ともいう。
【来歴】
『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。
【実証的見解】
仏性会は、涅槃会、成道会に並ぶ、仏教の三大法要のひとつで、四月八日あるいは五月八日に修される。釈迦の誕生は紀元前五世紀ころ。母親の摩耶夫人は白象が体内に入る夢を見て懐妊したとされる。釈迦は生まれるとすぐ七歩あゆみ、「天上天下唯我独尊」と唱えたという。すると八大竜王が歓喜して甘露の雨を降らせ、釈迦はそれを産湯にした。仏性会の誕生物に甘茶をかけるのは、この故事による。仏性会は、六百六年ころ中国から伝わって宮廷行事となり、室町中期以降、全国の寺院で営まれるようになった。
【例句】
灌仏の日に生まれあふ鹿の子哉
芭蕉「笈の小文」
灌仏や雛手を合はする数珠の音
芭蕉「三冊子」
灌仏の御指の先や暮の月
一茶「八番日記」
雲のあゆみ水のゆくかたや仏生会
白雄「題葉集」
額づけば我も善女や仏生会
杉田久女「杉田久女句集」
甘茶仏杓にぎはしくこけたまふ
川端茅舎「川端茅舎句集」
灌佛や鳶の子笛を吹きならふ
川端茅舎「川端茅舍句集」
大雨の降りかくす嵯峨や仏生会
渡辺水巴「水巴句集」
生れし日はわれも小さし仏生会
森澄雄「餘日」
白象の糸のまなじり仏生会
長谷川櫂「蓬莱」
遍路(へんろ)三春
【子季語】
遍路宿、善根宿、遍路道、遍路笠、遍路杖、四国巡、一国巡、島四国、花遍路
【関連季語】
秋遍路
【解説】
四国遍路のことで、弘法大師が巡錫した四国内の八十八か所の霊場を巡拝する。四月の桜の頃を中心に三月から五月にかけて、白装束で納経箱、金剛杖、数珠、鈴を持ち「同行二人」と書いた笠を被る。
【来歴】
『嬉遊笑覧』(文政13年、1830年)に所出。
【例句】
中二階くだりて炊ぐ遍路かな
芝不器男「芝不器男句集」
辿りゆく尾越の風の遍路かな
五十崎古郷「古郷句集」
浜風や遍路の妻のおくれがち
高橋淡路女 (雲母)
はきかへて足袋新しき遍路かな
星野立子「立子句集」
お水取り(おみずとり、おみづとり) 仲春
【子季語】
水取
【関連季語】
修二会、若狭のお水送り
【解説】
奈良東大寺二月堂における修二会の行のひとつ。三月十二日深夜、堂近くの閼伽井から香水を汲み本尊の十一面観音に供える。この水は、天平時代より遠敷明神が若狭から送り届けるという時空を超えた霊水。これを中心に堂内外ではさまざまな祈の行法がある。これが終わると奈良に本格的な春が訪れる。
【来歴】
『わくかせわ』(宝暦3年、1753年)に所出。
【実証的見解】
「お水取り」は、三月十二日の夜から十三日の未明にかけて、若狭井から香水をくみ上げる行事である。十三日の午前一時半ころ練行衆の行列が二月堂から閼伽井屋に向かい、暗闇の中で香水がくみ上げられる。香水は閼伽桶入れられ、榊を飾った台に載せて内陣に運ばれる。この「香水」は、本尊の十一面観音に献じたり、供花の水として用い、残りは一般の参詣者にも分けられる。香水は、若狭の遠敷(おにう)明神が神々の参集に遅れた詫びとして二月堂本尊に献じことに由来する。今でも「お水取り」に先立って若狭小浜市の若狭神宮寺では、「お水送り」(三月二日)の行事が行われる。
【例句】
水取りや氷の僧の沓の音
芭蕉「野ざらし紀行」
沓の音水の音しぬ二月堂
大魯「発句題林集」
しら梅や若狭の水に夜の声
松瀬青々「妻木」
煤あびて我も籠人お水取り
長谷川櫂「蓬莱」
修二会(しゅにえ、しゆにゑ) 仲春
【子季語】
二月堂の行、お松明、修二月会、達陀の行法
【関連季語】
お水取り、若狭のお水送り
【解説】
二月から三月にかけて、二月堂を中心に東大寺で行われる行事。三月十二日夜の籠松明と、翌未明のお水取は壮観である。お水取りを過ぎれば、古都奈良は本格的な春を迎える。
【来歴】
『俳諧初学抄』(寛永18年、1641年)に所出。
【実証的見解】
修二会は、修二月会の略で、天下安寧、五穀豊穣を祈って行われる法会である。各地の寺院で営まれるが、東大寺二月堂の修二会がもっとも有名で、二月堂の修二会は、本尊の十一面観音像を拝して行われる、十一面悔過の行法である。「悔過(けか)」とは仏を拝んで罪過を懺悔する行法。二月堂の修二会は、東大寺二世実忠が天平年間(七五二年)に修したのが始まりとされる。
涅槃会(ねはんえ、ねはんゑ) 仲春
【子季語】
涅槃、お涅槃、涅槃の日、涅槃忌、仏忌、涅槃像、涅槃絵、寝釈迦、仏の別れ、二月の別れ、去りし仏、鶴の林、涅槃寺、涅槃講、涅槃粥、涅槃変、団子撒き、涅槃図、涅槃仏
【解説】
釈迦が沙羅双樹の下に入滅した日にちなむ法要。旧暦の二月十五日であるが、新暦の二月十五日あるいは三月十五日に執り行われる。各寺院では涅槃図を掲げ、釈迦の最後の説法を収めた「遺教経」を読誦する。参詣者には涅槃だんごなどがふるまわれる。
【来歴】
『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
双林入滅 きさらぎや薪つきにし春を経て残る煙は霞なりけり 円空上人『続拾遺集』
【実証的見解】
涅槃会は、釈迦の誕生にちなむ仏性会、釈迦の悟りにちなむ成道会とともに三大法要として重んじられているもの。当日は涅槃図を掲げて法要を営む。涅槃図は、沙羅双樹のもとに横臥した釈迦のまわりを、弟子や動物が取り囲んだ図で、なかでも京都興福寺の吉山明兆作の涅槃図はその雄大さで知られている。釈迦が入滅した日は実際は定かでないが、『大般涅槃経』の記述にもとづいて二月十五日とされる。
【例句】
神垣やおもひもかけず涅槃像
芭蕉「曠野」
涅槃会や皺手合する数珠の音
芭蕉「続猿蓑」
こゝろゆく極彩色や涅槃像
太祇「太祇句選」
土不蹈ゆたかに涅槃し給へり
川端茅舎「華厳」
お涅槃や大風鳴りつ素湯の味
渡辺水巴「水巴句集」
おん顔の三十路人なる寝釈迦かな
中村草田男「長子」
涅槃の日鰻ぬるりと籠の中
飯田龍太「遅速」
大いなる身をはばからず寝釈迦かな
長谷川櫂「果実」
春愁(しゅんしゅう、しゆんしう)三春
【子季語】
春愁う、春思、春怨、春かなし、春の恨み
【解説】
春におぼえる愁いをいう。特別な理由がある愁いではない。花が咲き鳥が囀る季節ではあるが、ふとしたことで心がくもるのも春ならではのこと。
【例句】
春愁や灯は金殿に満つれども
赤木格堂「俳句三代集」
春愁や草を歩けば草青く
青木月斗「俳句三代集」
春愁や鏡に沈むおのが顔
日野草城「花氷」
春愁やくらりと海月くつがへる
加藤楸邨「雪後の天」
