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きごさい 第十七号が出ました

きごさいBASE 投稿日:2025年3月23日 作成者: dvx223272025年3月23日

特集 なぜ連体形止め?
詩歌語としての近現代文語 川本千栄
俳句の文語        片山由美子
『キマイラ文語』を読む  趙栄順
擬似文語俳句の成り立ち  腰英樹
連体形止めの例句     高橋真樹子選
*
麗しき島を詠む-「台北俳句会」と台湾の季語について 李哲宇
俳句の魅力-飯田龍太より 井上康明
私を支えた龍太の言葉 長谷川擢
近代メディアがっくった季節行事-初詣、甲子園野球、除夜の鐘 平山昇
連載 加藤楸邨×大岡信 対談⑤ 句集『起伏』について 構成・解説 西川遊歩
*
きごさい十(講座)
中日文化交流における漢俳と俳句      董振華
心ときめく雛祭りの菓子          中山圭子
韓国の四季と生活-ソウル俳句会の俳句から 山口禮子
硯がひらく世界              雨宮弥太郎
*
動物季語の科学的見解 鳥類(秋・冬)   藤吉正明

恋の俳句大賞(2024年後期)大賞はなし

きごさいBASE 投稿日:2025年2月15日 作成者: dvx223272025年2月15日

【大賞】
該当作なし

☆村松二本 選
【特選】 
吾輩は恋猫といふ猫である      安藤亮
騙されてあげると決めた雪の夜    江川ゆみ
湯上りの君に触れれば蜜柑の香    野原めぐみ
【入選】 
さらさらの髪の匂ひや夕端居     千葉文智
こえがしてあなたの匂い昼寝覚    悠雲憂季
恋をしてすこし太つて風光る     綾竹あんどれ
ネクタイを緩める仕草冬紅葉     倉森愛華
着ぶくれて君の気持ちが分からない  深谷健

☆趙栄順 選
【特選】 
不器用な恋つらなって葱の汁     八田昌代
おかはりのビール三杯まだ言へぬ   綾竹あんどれ
湯上りの君に触れれば蜜柑の香    野原めぐみ
片恋を隠し続けるサングラス     折田祐美子
ほっといて涙のわけは大夕焼     江川ゆみ
【入選】 
待ち合わせアイスティーも泣いている 古久保咲良
こちらから別れを告げて火が恋し   えな
一通のメールで終わる恋九月     益田信行

☆長谷川櫂 選
【特選】 
待つことはゆふぐれ色の毛布に似   蓮井理久
はつ恋の気泡さざめくソーダ水    桜鯛みわ
僕は雨君は太陽夏に入る       安藤亮
【入選】 
さらさらの髪の匂ひや夕端居     千葉文智
今彼も元彼もいる夏期講座      折田祐美子
りんどうを肩ポケットにくれし人   山下環
決心はあの日の言葉雪つぶて     藤岡美恵子
風花になりてあなたの窓辺まで    花咲明日香
忘れ得ぬ君とカウチンセーターと   岡山小鞠
編みかけのセーターほどく恋終る   円美々
霰降る時に一緒に居たい君      えな
一通のメールで終わる恋九月     益田信行
前髪を1ミリ切りすぎる夜長     深谷健
着ぶくれて君の気持ちが分からない  深谷健
どの恋も真剣でした秋の風      大塚かずよ

1月18日 第37回きごさい+報告


「一茶に見るわが国の園芸文化~世界最高水準の園芸文化とその庶民性~」

千葉大学大学院園芸学研究科 客員教授
『古志』同人
賀来宏和

 江戸時代、この国には当時の世界で最高水準の園芸文化が花開いていた。幕末にわが国を訪れた外国人は、庶民が園芸を愛好する様子を驚嘆の目で書き残している。
 
往古からわが国にある、植物など森羅万象に神性や精霊の存在を信じる原初的な信仰を土台として、折々に大陸から渡来した花を愛玩する習俗が、やがて観賞という作法をこの国に生む。大陸との交流が盛んな時期には、新しい植物や栽培方法などが渡来し、園芸に新しい光を与え、また、疎遠な時期には、それまでの蓄積を国風に熟成させ、わが国独自のものを作り上げる。そして迎える江戸期、世界の歴史上も珍しい比較的平和な260年余に亘る社会は、わが国独自の園芸を発展させた。
 江戸期の園芸文化は、徳川家康を始めとする将軍による植物愛玩に始まる。参勤交代制度による諸侯の江戸住まいと1657年の「明暦の大火」は数多くの大名庭園を生み出す契機となり、庭園造営の膨大な植物需要は、江戸近郊の農家が植木屋稼業を始める動機となった。
 世情が安定すると花鳥風月を楽しむ嗜好が生まれる。そのような成り行きに拍車をかけたのが、江戸中期の八代将軍徳川吉宗。吉宗は江戸近郊の飛鳥山、御殿山、墨田川などに桜を中心とする花の名所地を造る。これが、庶民を巻き込んだ花見文化を勃興させるとともに、身の回りでの植物の栽培や愛玩の風潮を生み出す。江戸後期には、時節の風俗として花見が定着するとともに、庶民の植物嗜好はやがて、品評会の「菊合せ」などの「花合せ」や見世物娯楽としての「梅屋敷」「朝顔屋敷」などの「花屋敷」、「菊細工」の「菊園」へと発展していく。
 こうして庶民が花見に繰り出し、身近に植物を愛でるようになると、面白くないのはこだわりの数寄者たち。誰でも持っている植物、栽培が容易なものは素人向きと、殊更に珍しい植物や栽培が難しいものを集める数寄者の園芸が一方で生まれる。
 「松葉蘭」と称されるシダ類の仲間。この奇妙奇天烈な植物を園芸化したのは日本人だけとされ、一鉢で家一軒が買える品種も出現、また、マンリョウの仲間である「百両金(カラタチバナ)」では一鉢2300両(今日の1億円以上)ものまで出たというから驚きである。
 また、諸藩では、殖産興業の目的を背景に持ちつつ、武士の精神修養としての園芸が行われるようになる。栽培を怠るとそれまでの努力が無駄となるのが植物との付き合いであり、これが精神修養に適うと捉えられたのであろう。
 江戸期に最高水準に達した園芸文化の特徴と言えば、独特の価値観や美意識による品種の選抜、栽培手法、観賞作法などが挙げられるが、見落としてはならない点は、園芸の庶民への普遍化である。当時の地球上で園芸がかくも広範に庶民化されていたのはわが国だけであったと言って過言ではない。

 小林一茶は生涯に二万句を残したとされ、『一茶全集』(信濃毎日新聞社刊)の第一巻『発句』には18,700余句が掲載されている。「雑の部」の植物に係るものを含め、植物の季題数は209。該当する発句は4,413句で、全発句の凡そ四分の一となる。
 これら発句を植物品目毎に多い順から並べると、「梅」421句、「花」376句、「桜」345句、「菊」 269句、「朝顔」159句、6位以下は、「柳」「竹」「稲」「栗」「紅葉」と続く。「花」は主として「桜」であり、「花」と「桜」を合算すると、多い順から「桜」「梅」「菊」「朝顔」となる。これこそが江戸期の庶民の四大観賞植物と称してよいだろう。
 一茶の特徴の一つが庶民性にあることは良く言われる。であるならば、その作品には、庶民が季節に楽しんでいた植物の様子が描かれているのではとの想像は見事に当たった。江戸後期の一茶の時代はまさに庶民園芸の絶頂期であり、幕末に訪れた外国人を驚かした庶民への広範な園芸の広がりの中心に一茶はいたのである。
 今回は、この四大観賞植物の中から、「桜」と「菊」を取り上げる。桜はわが国の自生種であるが、菊は大陸との交流の中で渡来し、国内で更に多様に品種化されたものである。勿論、わが国自生種のキク科の植物はイソギク、ヨメナなど多数あるが、「菊花展」で見る菊(イエギクとも言う)は渡来種もしくは渡来種を元に国内で更に品種化されたものである。
 まず「桜」。紙数の関係で、講演の中で取り上げた発句の一部を挙げてみた。

■東叡山寛永寺は一茶の頃も「桜」の名所、古田月船(一茶の俳友)と一緒に花見
   月船と登東叡山
  「御山はどこ上つても花の咲」 『文化句帖』(文化元年:一八〇四)
■徳川吉宗によって造られた「桜」の名所は江戸郊外
  「三足(みあし)程江戸を出(いづ)れば桜哉」 『七番日記』(文化七年:一八一〇)
■「花見」は江戸庶民の最大の行楽 
 「けふもまたさくらさくらの噂(うはさ)かな」  『真蹟』(文政三年:一八二〇)
■「桜」の名所は人だかり
 「花の山仏を倒す人も有(あり)」 『文化句帖』(文化四年:一八〇七)

■「花見」に「酒」はつきもの
  「畠縁(べ)りに酒を売(うる)也花盛(ざかり)」 『七番日記』(文化十五年:一八一八)
■やはり下戸組もいる
「下戸衆はさもいんき也花の陰」 『文政句帖』(文政八年:一八二五)
■将軍の御成りもあった「桜」の名所
  「くつろぎて花も咲(さく)也御成過(すぎ)」 『八番日記』(文政四年:一八二一)
■狼藉を働く武士も
  「上下(かみしも)の酔倒(よひだふれ)あり花の陰」  『文政句帖』(文政七年:一八二四)            
■天気予報では「晴」と出たが
  「十人の目利(めきき)はづれて花の雨」 『文政句帖』(文政七年:一八二四)
■仮病で仕事を休んで「花見」
  「二度目には病気をつかふ花見哉」 『文政句帖』(文政七年:一八二四)

 次に「菊」。
■よい仕立てのためには人の手で誘引
 「大菊や責らるゝのもけふ迄ぞ」 『八番日記』(文政二年:一八一九)
■一茶も「菊」を栽培
     菊植
  「山菊に成(なる)とも花を忘るゝな」 『七番日記』(文化十四年:一八一七)
■「菊」は渡来種、何度も大陸から新しい品種群が渡来
「大菊や今度長崎よりなどゝ」 『八番日記』(文政四年:一八二一)
■いよいよ勝負の「菊合せ」(「菊」のコンテスト)
 「うるさしや菊の上にも負かちは」 『七番日記』(文化十四年:一八一七)
■大名も「菊合せ」に参戦
「大名を味方にもつやきくの花」 『七番日記』(文化十四年:一八一七)  
■「菊合せ」の勝ち負け
  「負たとてしたゝか菊をしかりけり」  『八番日記』(文政三年:一八二〇)
■もう一つの庶民による「菊」の楽しみ方「菊細工」、巣鴨が中心
  「六あみだの代(かはり)や巣鴨の菊巡り」 『八番日記』(文政四年:一八二一)
■巣鴨などの植木屋の庭「菊園」はその季節には千客万来
  「菊茶屋のてんでに云(いふ)や一番と」 『八番日記』(文政四年:一八二一)
■「菊園」は飲食で商売、六次産業化
「茶代取(とる)とてならぶ也菊の花」 『八番日記』(文政三年:一八二〇)

ここに挙げた発句は、一茶が作品として残した庶民園芸のごく一部に過ぎない。
幕末の長崎に滞在し、江戸参府も行ったオランダ商館付き医官のシーボルトが帰国後に執筆した著書『日本』の中の小文「花暦」には、次のような一文がある。
曰く、「花好きと詩は日本において分離できぬ車の両輪である。」と。
当時の日本人が自然の中に抱いていた価値観と美意識、そして行動は、シーボルトの心をも確実に捉えていたのである。

<句会報告> 講演の後、句会が開催されました。選者:賀来邊庭、長谷川櫂
賀来邊庭 選
【特選】
侘助をだきて信楽蹲る           服部尚子
隣人に褞袍のままで御慶かな        木下洋子
一生を飛ばぬ梅またほころびぬ       イーブン美奈子
日当たりの方へ転がる朱欒かな       きだりえこ
柿童子おうとこたえる成木責め       服部尚子
【入選】
梵鐘を鳴らして落つる冬椿         きだりえこ
冬ざくら日はまだ高き山にあり       イーブン美奈子
ざんぼあや土佐の白波運び来て       きだりえこ
室の花ありやなしやと江戸をゆく      大平佳余子
梅の香に気づかぬほどに老いたまひ     森永尚子
苗売りの声裏店を曲がり来る        西川遊歩
漉きながす時の流れや冬芒         服部尚子
停電や無言の空に月冴ゆる         橘まゆみ
七種の何に魅かれて小雨かな        奈良握
椿の名つばらに聞かば百椿図        大平佳余子
飛梅のはるかな夢の蕾かな         イーブン美奈子
茶の花や里は三つの母語持ちて       イーブン美奈子
盆梅や鉢に都都逸きざむ粋         西川遊歩
のどけしやゴッホ焦がれし梅屋敷      西川遊歩
蠟梅は中将姫の涙かな           きだりえこ
吉原の桜自ずと奮い立つ          藤岡美恵子
今昔上野は花と人の山           越智淳子
白糸のごとく長らへ菊見酒         村山恭子
万有の引力の間に淑気あり         塚村真美
冬夕焼平野のかなた筑波山         佐藤森恵

長谷川櫂 選  (推敲例あり)
【特選】
タンカーの欠伸してをり春の海       上田雅子
寒木瓜の開きさうなる二輪かな       金澤道子
一茶忌や路地裏に置く植木鉢        谷口正人
【入選】
雪折を待つ一瞬のしじまあり        三玉一郎
初明かりぢつとしている埃にも       塚村真美
富士つくば天秤にかけ冬の月        賀来邊庭
冬ざくら日はまだ高き空にあり       イーブン美奈子
侘助をだきて信楽蹲            服部尚子
お隣へ褞袍のままの御慶かな        木下洋子
キジバトの番がけふも寒の梅        金澤道子
白梅の匂ふに似たり新暦          飛岡光枝
茶の花やヒマラヤは水こんこんと      イーブン美奈子
この年は雪多からん一茶の里        高橋慧
日の当たる方へ転がる朱欒かな       きだりえこ
餅花やぎしぎしと鳴る雪の家        飛岡光枝
盆梅を据ゑて畳の冷たさは         葛西美津子
仮設住宅ペンキ塗立去年今年        橘まゆみ
大寒や一茶生涯二万余句          葛西美津子

2025年1月22日 作成者: kasai3341 カテゴリー: きごさい+

「動物季語の科学的見解(鳥類二回目)」を追加しました

きごさいBASE 投稿日:2024年11月16日 作成者: dvx223272024年11月17日

 東海大学教養学部の藤吉正明先生による「動物季語の科学的見解」の追加です。三回目は秋と冬の鳥類の42季語、

稲雀(いなすずめ)、鶉(うずら)、啄木鳥(きつつき)、鴫(しぎ)、鶺鴒(せきれい)、鷹渡る(たかわたる)、鴇(とき)、入内雀(にゅうないすずめ)、椋鳥(むくどり)、鵙の贄(もずのにえ)、仙入(せんにゅう)、懸巣鳥(かけす)、燕帰る(つばめかえる)、あとり、交喙鳥(いすか)、頭高(かしらだか)、雁(かり)、しめ、田雲雀(たひばり)、鶫(つぐみ)、鶴来る(つるきたる)、鶲(ひたき)、鵯(ひよどり)、鶸(ひわ)、猿子鳥(ましこどり)、連雀(れんじゃく)、海雀(うみすずめ)、鴛鴦(おしどり)、鳰(かいつぶり)、鴨(かも)、鷹(たか)、田鳧(たげり)、千鳥(ちどり)、鶴(つる)、隼(はやぶさ)、梟(ふくろう)、冬鷺(ふゆさぎ)、鷦鷯(みそさざい)、木菟(みみずく)、都鳥(みやこどり)、鷲(わし)、白鳥(はくちょう)

 以上季語の解説が新しくなりました。ぜひ、お読みください。今後は、爬虫類、昆虫、魚類などについての改訂も予定しております。
 なお、今回の改訂にあたって引用及び参考にした文献は以下の通りです。

引用及び参考文献
・叶内拓哉・浜口哲一(二〇〇八)新装版山渓フィールドブックス十五野鳥、山と渓谷社
・小林桂助(一九九六)エコロン自然シリーズ鳥、保育社
・小宮輝之(二〇一〇)増補改訂フィールドベスト図鑑日本の野鳥、学研教育出版
・高野伸二(二〇一五)増補改訂新版フィールドガイド日本の野鳥、日本野鳥の会
・高野伸二(一九九六)山渓カラー名鑑日本の野鳥、山と渓谷社・トキ野生復帰検討会
・戸塚学・箕輪義隆(二〇一二)身近な野鳥観察図鑑、文一総合出版
・中村登流・中村雅彦(一九九五)原色日本野鳥成体図鑑(水鳥編)、保育社
・中村登流・中村雅彦(一九九五)原色日本野鳥成体図鑑(陸鳥編)、保育社
・新潟県トキ保護募金推進委員会
・日本のレッドデータ検索システム
・日本野鳥の会
・松田道生(二〇〇八)日本の野鳥図鑑、ナツメ社
・本山賢司・上田恵介(二〇〇六)鳥類図鑑、東京書籍

2025年最初のきごさい+は1月18日 「一茶に見るわが国の園芸文化」

きごさいBASE 投稿日:2024年11月12日 作成者: dvx223272025年1月22日

さまざまなジャンルから講師をお迎えして季節や文化に関わるお話をお聞きする「きごさい+」
年明けのきごさい+の講師は社叢学、園芸文化史がご専門の賀来宏和さん。
どうぞぜひご参加ください。
講演の後、句会もあります。 選者:賀来宏和(邊庭)、長谷川櫂

日 時 : 2025年1月18日(土) 13:30~16:00 
演 題 : 「一茶に見るわが国の園芸文化~世界最高水準の園芸文化とその庶民性~」
講 師 : 賀来 宏和 (かく・ひろかず)                          

プロフィール:  
1954年福岡県生まれ。「古志」会員。俳号「邊庭」。千葉大学園芸学部及び同大学院修了後、建設省(現国土交通省)に奉職。十三年後に退官、独立して会社設立。建設省時代に、1990年の「花の万博」を担当。会社時代は、2004年の「浜名湖花博」総合プロデューサーなど、花の催事や施設などの企画運営に参画。現在、千葉大学大学院客員教授。NPO法人社叢学会理事、NPO法人日本園芸福祉普及協会理事。専門分野は社叢学、園芸文化史など。千葉県流山市の公の施設「一茶双樹記念館」の管理運営に携わる中で、俳句や一茶の勉強を始め、その成果を昨年『一茶繚乱―俳人 小林一茶と江戸の園芸文化―』として上梓。

講師からのひと言
江戸期のわが国には、当時の地球上における最高水準の園芸文化が花開いておりました。幕末に訪れた外国人はその様子を驚嘆の目で記録しています。その特徴の一つは庶民性ですが、一茶が活躍した江戸後期は、その庶民性が絶頂に達した時代でした。
 生涯二万句といわれる一茶の句のうち、植物を季題とする発句は四千四百句余りあります。一番多い植物は何でしょう?その発句の中には、当時の人々が植物を観賞し、また、育てる様子が見事に描かれています。
 往古から日本人はどのように花や緑を愛でる文化を育てて来たのか、そして一茶の時代、庶民と花や緑はどのように接していたのか、その発句から覗いてみたいと思います。

2025年1月18日(土) 13:30~16:00  (13:15~ Zoom入室開始)
13:30~14:45  講演
14:50~15:20  句会(選句発表)
15:20~16:00  長谷川櫂(きごさい代表)との対談、質疑応答

<申込み案内>
1. 参加申し込み 1/9(木)まで: 

10月 きごさい+報告 李哲宇さんの「麗しき島を詠む」

きごさいBASE 投稿日:2024年10月28日 作成者: kasai33412025年9月24日

10月19日、第36回きごさい+がズームで開催されました。

麗しき島を詠む
――「台北俳句会」と台湾の季語について――
李 哲宇

1. はじめに
1.1. 「台湾文学」と「日本文学」の狭間

戦後の台湾で白色テロ時代に、中国語以外の言語は禁止されていた。その中で、日本語で創作し続けている日本語世代がいる。しかし、次の世代との間に言葉の障壁により、様々な悲しみが生まれた。また、この世代間の断層が原因で、これらの韻文は「台湾文学」として見なされてこなかった。その上、外地人の作品であるため、「日本文学」ではなく、「日本語文芸」として位置付けられてきている。
様々な問題が起きている中、「台北俳句会」の主宰者である黄霊芝は言語を道具として扱い、国籍より文芸に焦点を当てるべきだと主張した。すなわち、ナショナルな連帯の日本語世代がいれば、黄霊芝のようにそれを超越しようとする人もいる。

1.2. 戦後の日台俳壇の交流について
従来の研究は戦後の台湾俳壇について、1970年に誕生した「台北俳句会」を中心として形成されたと指摘されており、終戦後から「台北俳句会」が誕生するまでの間は「空白期」か「伏流期」と呼ばれる(鳥羽田、2016;磯田、2018)。黄霊芝はこの間に『雲母』に投句したことを明言しており、言わばこの期間に日本俳壇と繋がった個人が存在した可能性が高いと考えられる。
また、「台北俳句会」の結成は「七彩俳句会」と主宰者の東早苗と関わっている。1980年に加藤山椒魚によって「春燈台北句会」が結成され、現在も毎月句会が開かれている。さらに、黄霊芝の著作『台湾俳句歳時記』(2003)は「馬酔木燕巣会」と主宰者の羽田岳水と関わっている。これらの日台俳壇の関係性から、日台俳壇の間では密接な関係があると示唆されている。

2. 「台北俳句会」について
2.1. 「台北俳句会」の歴史

「台北俳句会」の歴史は「創成期」、「発展期」、「高原期」、「成熟期」、「転換期」と五つの時期に分けられる(磯田、2017)。
また、「台北俳句会」は次の特徴を持っている(黄、2003)。①師事の問題。②会員構成の複雑さ。③多種多様な参加動機。④結社参加の選択肢の欠如。⑤様々な文事に携わる普遍性と趣味としての位置づけ。⑥会員に対する独立思考の推奨。⑦「台北俳句会」の今後の行方。
「創成期」には、各俳人の個性が作品に反映されていた。「発展期」には、「春燈台北句会」との少し関わりが窺えるほかにも、俳論の掲載や、自由律俳句や多言語での表現といった黄霊芝による俳句の試みが見られる。「成熟期」には、羽田岳水の賛助出詠と黄霊芝の『燕巣』で「台湾歳時記」の連載で両句会の協働関係が目立つ。「高原期」には、黄霊芝が有季定型の作法に戻り、連作を詠む特徴が見られる。「転換期」には、逝去した黄霊芝の代わりに、台湾季語を詠むことは句会運営の方針となり、黄霊芝の意思を受け継ぐ形となった 。

2.2. 日本俳壇との関わりから見る「台北俳句会」の発展
1970年に東早苗の訪台をきっかけに「台北俳句会」は「七彩台北支部」として誕生した。しかし、この関係は一年余りで破綻し、「台北俳句会」は独立した句会となった。両句会の間での破綻は、金銭上のトラブル(磯田、2017)や、主宰者の優位性を維持するために日本語世代への配慮が足りないこと(下岡、2019)などが原因であった。
ただし、黄霊芝と「台北俳句会」はこれによって日本俳壇と絶縁となっていない。例えば、『台北俳句会五十五周年記念集』には、東早苗、羽田岳水、福島せいぎ、吉村馬洗、坊城中子、稲畑広太郎、金子兜太、草間時彦、加藤耕子、園部雨汀、星野高士、長谷川櫂、石寒太等の俳人の訪台が確認できる。
「台北俳句会」と「日本伝統俳句協会」との合同句会では、坊城中子が台湾人が有季定型の作法を守るかどうかに対する危惧と戦前世代への配慮が見受けられる。実際に、国籍が翻弄され、アイデンティティが揺らいでいた「台北俳句会」の会員もいた。しかし、黄霊芝は文芸の主体性を強調し、多元的創作表現の重要性について語った。

2.3. 黄霊芝の芸術観と後継者の不要
芸術至上主義的な考え方の持つ(岡崎、2004)黄霊芝にとって、詩は最も自らの芸術観を表現できる文芸だと考えられる(黄、1979)。なお、2002年にNHKが取材しに来た際、日台間の政治問題に触れることで黄霊芝の不満を招いたため、「台北俳句会」の会報で文芸の主体性を改めて強調した。
また、黄霊芝は2003年に「台北俳句会」は「亡びを前提とした会」と語っており、2010年には全国日本語俳句コンテストへの協力に賛同しながらも、改めて後継者の不要を言及した。黄霊芝が求めているのは後継者ではなく、共に文芸を語り合える相手であろう。
しかし、「台北俳句会」には自らの歴史や記憶を理解してもらう日本語世代がいる。また、俳句会の存続などの問題も浮上してきている。そのため、「台北俳句会」は学生や地方公共団体とのイベントに取り組み、あるいはそれらを後援する姿勢を取っている。

3. 台湾季語について
3.1. 「馬酔木燕巣会」との協働

台湾俳壇史上の二冊目の歳時記である『台湾俳句歳時記』は、黄霊芝が1989年から1998年まで『燕巣』で「台湾歳時記」を題にして連載された内容を基づいた出版物である。編纂する経緯について、台湾ゆかりの羽田岳水が黄霊芝に協力を求めたという(岡崎、2004)。一時的な協働関係が成立したが、『台湾俳句歳時記』は最終的に黄霊芝の単著作品となった。この関係性について、羽田岳水と黄霊芝がそれぞれの作品における表現の主体性に対する認識の食い違いから生じた問題だと指摘されている(磯田、2018、阮、2020)。なお、『燕巣』での連載が終わった後、「台北俳句会」の例会では、のちに台湾季語となる兼題を引き続き出されていた。
3.2. 『台湾俳句歳時記』の特徴と独創性
「台湾歳時記」を連載し始める前に、黄霊芝は既に「日本趣味」を批判する文章が残している。また、黄霊芝は台湾季語の創出、を美の追求と位置付けている。
その上で、『台湾俳句歳時記』にはいくつの独自性がある。一つ目は、春夏秋冬を用いずに、暖かい頃、暑い頃、涼しい頃、寒い頃という斬新な分類法を使用したこと。二つ目は、台湾語を表現する振り仮名である。例えば、月来香(グエライヒョン)。三つ目は政治詠である。二二八(リイリイパッ) や光復節(クヮンフウチエ、(中))などが挙げられる。

3.3. 台湾季語の諸問題と台湾季語の現在
黄霊芝によれば、『台湾俳句歳時記』には次のような問題点がある。①寿命と歳時記の編纂期間。②資格の有無。③月刊連載のペース。④季の認定。⑤季語との区分範囲とその方法。⑥台湾における様々地理、民族や言語の問題。⑦地方による同じ言語の違い。⑧台湾語における読み言葉と話し言葉の違い。⑨振り仮名で台湾語表記の困難さ。⑩学問による季語の題名の違い。⑪「日本趣味」と「台湾趣味」の違い。⑫著者のために書くか読者のために書くかの問題。⑬先行研究の欠如。⑭完璧主義。
さらに、台湾季語や台湾俳人が詠む俳句が真に価値を発揮するためには、詠み手に理解力が求められている。

4. おわりに
4.1. 台湾俳壇のビジョン

「台北俳句会」の存続に賛成する理由は三つある。その一、文人のサロンとしてのトポス。その二、歴史を追体験できる空間の保有。その三、次世代の文芸家を育てるための場。

4.2. 日本俳壇の新たな可能性
作風が異なる俳人の興味を引き出す外地の俳壇から、現代日本俳壇の知識を学び合い、互いに刺激し合う可能性がある。

******

講演後、句会が開催されました。

李哲宇 選
【特選】
台灣藍鵲秋の光を曳いて飛ぶ        長谷川櫂
【入選】
戦時下の台湾語る秋灯し          鈴木美江子
海といふ国境深し秋の空          高橋慧
なつかしき我家への道金針花        飛岡光枝
台北の朋も愛でゐる今日の月        長谷川冬虹
言の葉のさきはふ島や小鳥来る       趙栄順
紹興酒おくび香し秋の夜          越智淳子
荻の声近くて遠き国なりき         高橋慧
長き夜や台湾季語を繙けば         葛西美津子
青楓フォルモサの風聴きにけり       村井好子
ボロボロになりし歳時記秋惜しむ      金澤道子

飛岡光枝 選
【特選】
藍鵲か睡蓮の花か水浴びす         長谷川櫂
深けるほど灯りうねるや夏夜市       谷口正人
青楓フォルモサの風聴きにけり       村井好子
流星の闇へ投げ出す頭かな         藤原智子
【入選】
渡らざる鴎と我と遊びをり         イーブン美奈子
昆劇の恋の花咲く月夜かな         西川遊歩
秋灯の星のごとくに夜市かな        趙栄順
台北の朋も愛でゐる今日の月        長谷川冬虹
一本の真白き氷柱黄霊芝          三玉一郎
幻の茶がなるといふ霧の山         趙栄順
茶杯の香ゆつくり聞くや星月夜       村井好子
彗星の見つからぬまま虫の闇        金澤道子
黄さんの田うなぎ料理皿の上        西川遊歩
飛び交うて台灣藍鵲けさの秋        長谷川櫂

長谷川櫂 選  
【特選】
洟垂将軍霊芝少年大あばれ         飛岡光枝
昆劇の恋の花咲く月夜かな         西川遊歩
一本の真白き氷柱黄霊芝          三玉一郎
惜秋や夜毎聴き入るヨーヨー・マ      江藤さち
台湾は台湾なるぞビール干す        長谷川冬虹
【入選】
マオタイ酒きこしめしたかちんちろりん   趙栄順
夜空にも湧く大いなる鰯雲         高橋慧
果たてまで檸檬かつての黍の畑       橘まゆみ
月今宵ダン・ホワン・スーと茉莉花茶    村山恭子
息白しシェンドウジャンを啜り食ふ     村山恭子
茶杯の香ゆつくり聞くや星月夜       村井好子
紹興酒おくび香し秋の夜          越智淳子
大いなる秋月しづか街外れ         越智淳子
黄さんの田うなぎ料理皿の上        西川遊歩
缶の底の手揉みの紅茶秋深し        村井好子
流星の闇へ投げ出す頭かな         藤原智子

11/16(土) Zoom でHAIKU+、講師は井上康明さん

きごさいBASE 投稿日:2024年10月12日 作成者: dvx223272024年11月12日

「HAIKU+」は、現在ご活躍中の俳人・俳句研究者をお迎えして、「俳句で今何が問題か」という統一テーマで、俳句の未来を考える催しです。
今回の講師は俳人で「郭公」主宰の井上康明(いのうえ・やすあき)さん。
遠方の方も参加しやすいZoomを使ったオンライン講演となります。
Zoomは初めてという方も、パソコン、スマートフォン、タブレットを使用されていれば、比較的簡単に視聴できます。ただし事前に参加申し込みが必要です。詳細は下記の<申込み案内>をご覧ください。

日 時: 2024年11月16日(土) 13:30から

演 題 : 俳句の魅力 ―飯田龍太よりー

講 師:  井上康明(いのうえ・やすあき)

<プロフィール>  
1952年、山梨県韮崎市生まれ。山梨大学卒。俳誌「郭公」主宰。句集に『四方』『峡谷』。著作に『山梨の文学』(共著)など。県立高校教諭を経て山梨県立文学館に勤務。二十代で俳句を始め飯田龍太、廣瀬直人に師事。「雲母」会員、「白露」同人を経て現在に至る。毎日俳壇、山梨日日新聞俳句欄選者。NHK学園俳句倶楽部講師。各種俳句大会選者。俳句に「ふかふかの手袋が持つ通信簿」など。

<講師よりひと言>
  飯田龍太の俳句について、その生涯の作品から特に第一句集から第10句集へ進んでいく様子について話題にしたいと思います。龍太は何を詠んだのか、なぜそれを詠まなければならなかったのか、同時に龍太は散文も多く書いた俳人でした。龍太にとって散文は何だったのか考えてみたいと思います。

2024年11月16日(土)
13:15 Zoom入室開始
13:30~15:00 講演 
15:00~15:45 木下洋子(きごさい編集委員)との対談、質疑応答     

恋の俳句大賞(2024年前期)大賞は田中さん

きごさいBASE 投稿日:2024年8月5日 作成者: dvx223272024年8月6日

【大賞】
白息のあふるるたつたひと言に 田中目八
【作者のコメント】
 普段恋の句を詠むことはないのですけれど、ラブコメや切ない話が好きで『恋の俳句大賞』を知ってから毎回応募し続けていました。折しも誕生日を迎えて友人たちにお祝いしてもらった翌日、大賞の連絡にプレゼントをいただいた心持ちです。これからも恋の句を追いかけてゆきたいと思います。ありがとうございました。
【選評 趙栄順】
 大賞受賞,おめでとうございます。彼,彼女への熱い思いは,白い息となってあふれる。そして思いは,たったひと言に結ばれる。たったひと言,何と言ったか。それは,それぞれの読み手の想像に任される。想像によって詠まれ,想像によって読まれる。短詩文芸の理想型。

☆村松二本 選
【特選】 
サルビアをくわえるごとき愛撫かな 箔塔落
堕ちてゆく覚悟を決める花火かな  益田信行
【入選】 
あの人が灰になるまで春の夢    折田祐美子
蛍の夜このままゆけばゆきどまり  三上悦子
かみなりに奪はれまいと抱きしめる 田中目八
君のへそ鍵穴みたい夜のプール   げばげば
ラブレターひと晩冷やす冷蔵庫   八田昌代

☆趙栄順 選
【特選】 
結婚をしようか君と豆ごはん    綾竹あんどれ
夏、君を冷凍したいぐらい好き   深谷健
初浴衣君になるまで君を待つ    城内幸江
恋をして体浮きたる柚湯かな    綾竹あんどれ
白息のあふるるたつたひと言に   田中目八
染まりたく染まりたくなく白木槿  春海のたり
【入選】 
雨の日の蜜豆恋は実りそう     矢作輝
曼殊沙華悪い男と判りつつ     若林明良
駈けてくるバレンタインの夜の君  加々美登
恋に落ち恋に溺れる夏休み     山川成久
最後の恋だよ飛び込みの大飛沫   蓮井理久
もう一度君にふられてみるビール  綾竹あんどれ

☆長谷川櫂 選
【特選】 
玉の汗引くを待たずに告げにけり  田中目八
ケンカしてはなれて同じ街に虹   悠雲憂季
初恋の真っ最中の受験かな     森 佳蓮
【入選】 
日焼けした腕と寝癖とあと全部   げばげば
風花が君の睫毛にふれて恋     綾竹あんどれ
君といた夏よ沈まぬ太陽よ     江川ゆみ
君のへそ鍵穴みたい夜のプール   げばげば
包丁も悲恋の証夏芝居       貴田雄介
ラブレターひと晩冷やす冷蔵庫   八田昌代

10/19 (土) ズームできごさい+ 「麗しき島を詠む」

きごさいBASE 投稿日:2024年7月29日 作成者: dvx223272024年11月12日

さまざまなジャンルから講師をお迎えして季節や文化に関わるお話をお聞きする「きごさい+」
今回の講師は、名古屋大学大学院で戦後の日台俳壇についての研究をされている李哲宇さんです。
どうぞぜひご参加ください。
講演の後、句会もあります。(選者:李 哲宇、飛岡光枝、長谷川櫂)

日 時 : 2024年10月19日(土) 13:30~16:00
演 題 : 麗しき島を詠む――「台北俳句会」と台湾の季語について
講 師 : 李 哲宇 (リ テツウ)

プロフィール:
1996年台湾台北市生まれ、新北市出身。2018年台湾輔仁大学日本語学科を卒業。2021年台湾輔仁大学日本語学科修士課程で修士号を取得。現在、名古屋大学人文学研究科日本文化学講座博士後期課程在学中。戦後の日台俳壇の交流について博士論文に取り組んでいる。「台北俳句会」会員、「春燈」会員、「耕・KŌ」会員、「台湾川柳会」会員、「俳人協会」会員。
俳句のほか、「私から見た金沢、日本とは」(留学生エッセイコンテスト、金沢香林坊ロータリークラブ主催、2018年、最優秀賞)、「季節の美」(『春燈』7月号、春燈俳句会、2023年、p. 39)等のエッセイもある。現在は都道府県を回りつつ、記録としての俳句及び紀行文を残すことを目指している。

講師からのひと言
中国語、台湾語などの発音でルビを振るものや春夏秋冬を使わない分類法で表現する。もしこのような季語があれば、かなり想像しがたいであろう。しかし、日本に近いようで遠い南国の台湾では、このような「台湾季語」が存在する。加えて、独特な匂いがする「臭豆腐」、台湾における白色テロの発端である「二二八」、魚だがサバではない「サバヒイ(虱目魚)」などの解説文を読まないと分からない項目も見受けられる。様々な独自性を持つ「台湾季語」は、どうして創り出されたか、どう詠まれたかなどの問題は、日本人にとっても、台湾人にとっても難しく、複雑に思われるであろう。これもまた台湾季語と台湾の俳句の魅力だと、私は思う。

2024年10月19日(土) 13:30~16:00  (13:15~ Zoom入室開始)
13:30~14:45  講演
14:50~15:20  句会(選句発表)
15:20~16:00  飛岡光枝(きごさい編集委員)との対談、質疑応答

ズームを使ったオンライン講演会です。10/10(木)までに参加申し込みをして、10/15頃メールで配信するズーム入室URLなどの案内をご確認いただかないと、当日視聴できません。よろしくお願いいたします。

7月 きごさい+報告 「硯がひらく世界」 

きごさいBASE 投稿日:2024年7月14日 作成者: dvx223272025年9月24日

7月6日、第35回きごさい+がズームで開催されました。

「硯がひらく世界」       甲斐雨端硯本舗13代目硯匠 雨宮弥太郎

〇雨畑硯の歴史
雨畑硯は山梨県南部早川町雨畑にて産出される石で当家初代雨宮孫右衛門が元禄3年(1690年)身延山参詣の途上黒一色の流石を広い作硯した事に始まると伝えられています。(日蓮上人高弟開祖の伝承もあり。)雨畑は山深い所であるため当時富士川舟運で栄えた鰍沢に多くの職人が集まり硯づくりが盛んになりました。そして、天明4年四代要蔵が将軍家に硯を献上するなどして雨畑硯の名が全国に高まることとなりました。
(※雨畑硯は地場産業としての一般的な表記であり「雨端硯」は八代鈍斎が中村敬宇氏よりいただいた雨宮弥兵衛家の登録商標表記です。)

〇硯造形の流れ
日本は工芸王国です。しかし石の工芸はあまり注目されてきませんでした。硯の歴史を調べてみても 多くは硯箱の意匠の変遷に重きが置かれ硯についてはほとんど触れられていません。硯の意匠について 当家に残る八代鈍斎、十代英斎の作品などをみても中国硯の強い影響が見られます。日本独自の硯の意匠は十一代静軒から始まると言えるかもしれません。 静軒は文房四宝に造詣の深い犬飼木堂翁に教えをいただき東京美術学校で彫刻を また竹内栖鳳より図案を学び 自然の風物を硯に取り入れ芸術としての硯を確立しました。 その〝間〟を重視した造形は 柔らかい硯石の質感を十二分に生かした和様の意匠です。続く十二代弥兵衛・誠の作品は抽象表現主義の影響を受けた斬新なシンプルな造形となり 硯作品にも時代の美意識の変遷を見て取る事ができます。 続く私の作品ですが父の無駄なものを極力省いたシンプルな造形をベースに〝何でもない形でありながら品格の宿るかたち〟を目指して独自のスタイルを模索しているところです。

〇硯の用途とは
硯は墨をするための道具です。 しかし本当にそれだけのものでしょうか。 焼き物で作られていた古代の硯にはどう見ても実用第一に作られたものにはみえない〝円面硯〟〝多足硯〟〝動物硯〟などが見られます。 字を書くという事が特別であった時代の〝権力〟〝祈り〟への想いがあるように感じられます。 また中国に見られる文房飾り。実用以上に文人の理想の境地の表現です。ここでは硯は一番の主役でした。 知的に自分を高めるための存在だったのではないでしょうか。
私は 硯は〝墨を磨るうちに心を鎮め 自分の内面と向き合うための道具〟と捉えています。いわば〝精神の器〟として現代の造形としての可能性を感じています。
では、硯が硯として成立するためにはどんな条件が必要でしょうか。私は良石に平らな面さえあれば充分だと考えています。 そして そこさえ押さえておけば かなり自由度の高い造形が可能です。 さらに墨が溢れにくいように縁が生じ 磨った墨をためる窪みの出現など 現在のスタンダードな硯の形が完成しました。この硯の形の成立には今では当たり前のスティック状の〝墨〟の完成が必須でした。 この硯の形の完成は唐代のことと言われ現在でも〝唐型硯〟というスタイルで定着しています。

〇硯石について
雨畑の石は良質な粘板岩であり岩石が生成される際の圧力によって板状に生成されるはっきりとした石目をもった素材です。 その際に雲母、石英といった硬質な微粒子が均一に発生し、この〝鋒鋩〟と呼ばれる粒子が墨を磨る硯の生命です。 適度な硬度の石質であると長く使用していても最適な〝鋒鋩〟が保持される。これが何よりも大切な硯石の条件です。 しかし自然生成された素材ですので異物が混入していたり 傷が多い石が殆どです。雨畑には粘板岩状の山肌が沢山見られますが硯に適した良材は限られた層から産出される貴重なものです。
この原石を硯にするには まず上下面をタガネ→鑿→砥石を用いて水平とし板状に整えます。 切断機、砥石等を用いてさらに外形を整え、多様な刃先の鑿を用いて墨堂、墨池(陸、海)を掘り進めます。 次に砥石を用いて磨いていきます。 〝磨き〟といっても ただつるつるに磨き上げるのではなく何よりも最適な〝鋒鋩〟に整える事が大切です。 最終的に墨ぬりをへて墨堂墨池以外の硯まわりを拭き漆で炭の微粒子を定着させてブラシで拭き上げて艶を出して仕上げます。

〇私の作品制作について
作品制作においてはまず明確なイメージを持つ事が大事になります。そのイメージの形を頭の中で三次元で回転させて多方向からも形がイメージできるように練り上げます。 大切なのは頭の中で形が周りの空間ごと ひとつの風景として再現できるかという事です。 次にそのイメージが現実化できそうな原石を探します。この時に自分のイメージした形がそのまま実現できる大きさ、プロポーションの原石はほぼ無いのが現実です。なんとか形になりそうな素材を選びイメージと原石をすり合わせながら制作を進めていきます。 はじめから思い通りにいかない状態からイメージだけを頼りに制作を進めます。まるでアドリブを積み重ねるジャズの演奏のように その模索の時間こそが制作の喜びです。その不確定な制作の最中に当初思い描いていなかったようなものがまるで天の啓示のように湧き上がってくることもあります。この天からの啓示を引き寄せる力 柔軟に対応して最終的には自分の形にできるという自信のようなものが 今まで自分の培ってきた造形力(創造性)なのだと私は考えています。
しかし、工芸会の別の素材の作家との会話から創造の過程には別な形がある事も発見しました。その作家は制作当初に厳密な設計図を描きそれが完璧に実現出来る事が素晴らしい制作工程だと話していました。私と全く違う考えですが、その一枚の設計図には深い経験が反映されていると考えられます。私も日々の生活の中で路上の枯葉に新しい造形要素を発見するなど 目にする全てのものを硯造形に引き寄せて見てしまう習慣があります。
そういった観察の蓄積が作品イメージに結実していく。 日々の習慣と経験が創造力の源だという点では同じなのかもしれません。

〇これからの〝硯〟
硯の未来を考えるうえで こんな現実があります。 毎年 小学生50名ほどが伝統文化を学びにやって来るのですが殆どの子ども達が硯が墨を磨る道具である事を知らないのです。 現在の小学生の書道セットに入っている硯は樹脂制でほぼ墨汁をためる為だけに使われています。そのために実際に石の硯で墨を磨った経験のある子は僅かだろうとは思っていましたが そこまでとは驚きでした。そこで現在は実際に硯で墨を磨ってもらうワークショップを積極的に開催しています。墨を磨る時の感触、香などで気持ちが落ち着く時間を体験し、磨った墨で描いてもらうことで墨汁とは違った多彩な色合いを発見してもらいます。墨汁を使った書道の時間も入門として大切ですが 実際に石の硯で墨を磨る豊かさは心に残ってくれると信じています。 〝文化としての硯〟を今後とも伝承していきたいと思います。
硯を現代の造形として広める事も私の夢です。硯に向き合う事は禅の石庭に瞑想することと同義である事 いわば〝ZEN. STONE〟として海外にもアピール出来たらと思っています。硯の存在は地味で小さなものですが日本文化を支える大事な要素として広めていけるよう精進を重ねたいと思っています。

<句会報告> 講座の後、句会が開催されました。選者:雨宮弥太郎、西川遊歩、長谷川櫂
雨宮弥太郎 選
【特選】
硯より湧くこゑを聞く楸邨忌        西川遊歩
月涼し心はさらに墨磨れば         齋藤嘉子
悠久の時を削りて硯とす          上田雅子
滴りやみるみる目覚め大硯         西川遊歩
空掴む吾子の掌新樹光           丸茂秀子
【入選】
月一つ沈めて深き墨の海          三玉一郎
遠き日の墨磨る父や星祭          鈴木美江子
文鎮と硯の重み夏休み           奈良握
漂泊の硯の寓居月涼し           西川遊歩
魂の涼しと思ふ硯かな           きだりえこ
うち澄まし硯にうつす梅雨の月       足立心一
手のひらにあたたかくある硯かな      高橋慧
星涼し今宵夜空を硯かな          葛西美津子
遺されし硯一片夏の雲           飛岡光枝
墨磨れば香の運びくるはるか夏       越智淳子
墨書てふ虚実のあはひ沙羅の花       長谷川冬虹
青墨の涼一文字や夏座敷          金澤道子

西川遊歩 選
【特選】
月一つ沈めて深き墨の海          三玉一郎
涼しさの甲斐に硯の海ひとつ        イーブン美奈子
青山河研ぎ出したる硯かな         齋藤嘉子
一つ葉に目をやすめては硯彫る       長谷川櫂
山滴るその一滴を硯とす          齋藤嘉子
月涼し墨摩るほどに心澄み         木下洋子
【入選】
滴りの滴一滴と硯磨ぐ           葛西美津子
涼しさや硯の海をわたりゆき        イーブン美奈子
遠き日の墨磨る父や星祭          鈴木美江子
青梅雨の窓に籠りて硯彫る         葛西美津子
ならまちや墨の香のたつ麻のれん      きだりえこ
魂の涼しと思ふ硯かな           きだりえこ
滴りのただ一滴の硯かな          三玉一郎
迸る井戸のポンプに硯洗ふ         越智淳子
手のひらにあたたかくある硯かな      高橋慧
浮葉より硯の海へひと雫          きだりえこ
筆硯濯ぎてよりの夕涼み          きだりえこ
青墨の涼一文字や夏座敷          金澤道子
雄勝石戴く駅舎梅雨曇           足立心一
大いなる硯に山の滴りを          木下洋子

長谷川櫂 選
【特選】推敲例あり
硯より湧くこゑ聞かん楸邨忌        西川遊歩
青山河研ぎ出したる硯かな         齋藤嘉子
滴りやみるみる目覚め大硯         西川遊歩
【入選】
滴りの滴一滴と硯磨ぐ           葛西美津子
初盆やそのままにある硯箱         鈴木美江子
くろぐろと春一文字初硯          三玉一郎
翠巒に対すがごとく硯あり         齋藤嘉子
明易やしんと雨畑硯あり          飛岡光枝
一片の蓮の花びら硯かな          飛岡光枝
墨磨つて今日の一文字夏休み        飛岡光枝

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